『闇が 光を 照らす時』第六話 『金色の光』「だから・・・どうだって言うんだ」 シェゾの意外なリアクションに、彼女は動きを止めた。 ――――― ボクが、キミを殺したんだから!! ――――― その言葉の後に続くには、あまりにも素っ気ない台詞でありすぎた。 「当然の結果だろう? ・・・俺達は敵同士だ。いずれは、どちらかが どちらかの手にかかる・・・必然的な話だろう」 更にそう続けた彼の瞳には、彼女の姿は映っていなかった。 いや、映すことができなかったと言い換えるべきであろうか・・・ 「 ――――― う・・・そ・・・」 不意に小さな声が聞こえた。 誰もいるはずのない闇の中からの声。 「どうして・・・どうしてボクが、そんなことを・・・」 声の主は既に眠りに落ちていると思われていたアルルであった。 ジェイクの家の木戸のすぐ前で、呆然と立ち尽くしているかのように、 こちらを見つめている。 「だって、ボクは・・・ボクは・・・」 完全な錯乱状態に陥っているのだろう。 今の話のどの程度が聞こえていたのかは判断しかねるが、少なくとも 自らと同じ容姿をした『アルル・ナジャ』と、自分自身の存在そのものとの 区別が明確になっていないのではないかと思われた。 「うそ・・・でしょ? ボク、そんなことしないよ。・・・ねえ、ウソだって言ってよ」 今にも消え入りそうな小さな声が、シェゾの注意を逸らした。 「出てくるな! アルル!!」 当然ジェイクの叫びは、既に無意味なものであった。 過去の自分自身を視界に捕らえた彼女は、今まで流した涙を全て吹っ切るかの ような仕草で両手を空にかざしている。 「アルル・・・っ!!」 僅かに遅れて、シェゾもその状況に気が付いた。 目前の『アルル』が狙うは、彼女自身 ――――― 肝心のアルルは、ジェイクの叫びに気付いたものの、そのままどうすることも できずに目を見開いている。 「お願いっ!! これで終わらせてぇぇぇっ!!」 叫びと当時に彼女は眩いばかりの光の塊を解き放った。 「 ――――― !!」 まるで時間が止まってしまったかのように微動だにしないアルルめがけて 光の魔力は闇に軌跡を描く。 ――――― シェゾぉっ!! 闇の中に、アルルの声が響いた。 「シェゾ・・・シェゾぉっ! どうして・・・いやあぁぁぁぁっ!!」 アルルの体を襲ったのは、凄まじい魔力などではなく、彼女を庇うかのように 飛び込んできたシェゾ、その人であった。 アルルを襲うはずだった魔力の全てをその背に受けて、崩れるように 倒れこむ彼をアルルは血塗れの手のまま抱きとめる。 まるで半狂乱になったかのような悲痛な叫びに、 もう一つの声が重なった。 「どうして・・・どうしてキミは、いつもそう・・・なの?」 魔力を放った本人は、そのままその場にへたり込むかのように 崩れ落ちる。 「どうして・・・どうしてまた、ボクを悲しませるの・・・」 茫然自失となったまま、彼女は自らの目前で、自らの魔力により倒れた シェゾの姿を瞳に映し続けていた。 本気で ――――― 自らを滅ぼすつもりで放った魔力。 ただで済むはずがない。 それは自らが一番良くわかっていた。 「 ――――― お願いっ・・・目を開けて・・・っ!!」 泣きながら辛うじてそう声にする、アルルの声。 しかし、その声すらも彼に届いていないのか、 倒れこんだまま微動だにしない。 頬を伝い落ちる大粒の涙が、彼の頬を濡らしても、それでも彼の瞳は 開かれようとしない。 「・・・死なないで! ボクを一人にしないで!!」 銀色の髪の魔導師の身体を更に強く抱きしめて、アルルはそう叫ぶ。 「・・・あの時と、同じだ ――――― 」 ジェイクはその光景に見覚えがあった。 それは、彼が瀕死の重傷を追ったアルルを、自宅に連れ帰ったその翌日。 突如目覚めたアルルが言った言葉である。 ――――― ボクを一人にしないで ――――― 混乱しているのか、自分がどこにいるのかもジェイクの存在にすらも 気付かぬように、ただ恐怖に震え、辺りを包む暗闇に脅えていた。 体の傷は、治癒魔法によって、ほぼ癒えていた筈だ。 しかし、心は暗く深い闇に閉ざされたかのように、 酷く傷ついていたように思われた。 彼が、アルルを魔導と関わりのない世界に隔離しようと決めたのは、 そのためであった。 何があったのかは知らないが、この少女の心は純粋すぎる・・・と。 「 ――――― !?」 ほんの一瞬の狭間にそう考えを巡らせていたジェイクであったが、 その時の光景とは全く別の事実に気付き、思わず息を飲む。 ――――― いや、思わず見とれてしまう・・・ と言い換えた方が的を得た表現であったろうか・・・ 「・・・なに、あれ・・・?」 自らにも届かないくらいの小さな声で、彼女も呟いた。 ――――― アルルの体が、光を帯びている。 淡く、それでいて柔らかな光。 そして、溢れ出すようなエネルギー・・・ いわゆる治癒魔法に近い力であるのは明白ではあるが、単なる 『魔法の効果』と言い切ることはできないくらいの 彼女の不思議な力・・・ 「・・・お願い・・・目を開け・・・て」 未だ動かぬ彼の身体を自らの体ごと淡い光で包み込み、もう一度アルルは そう呼びかける。 ジェイクのいる離れた位置からでも、アルルが放つ光からは 普通では考えられないほどの『治癒』を促すエネルギーが迸っているの が感じられた。 通常の傷であれば、たちどころに完治してしまうであろう。 しかし・・・彼は ――――― 「もう・・・手遅れかもしれない・・・」 声にはなっていなかった。 それを口にすることは、あまりにも酷なことに思われたからである。 「いや・・・っ! 死んじゃ嫌だっ!! だって、 だってボク・・・っ」 アルルの放つ光は、更に強さを増した。 眩しいくらいの光が、辺りをまるで真昼のように照らし出す。 闇の中に金色に輝くアルルの身体は、あまりにも強烈過ぎる力の放出に 耐えられるはずもなく、悲鳴を上げ続けるかのように小刻みに痙攣を 始めていた。 「 ――――― シェゾぉっっ!!」 全ての力を振り絞るかのように、アルルはもう一度叫ぶ。 それが・・・限界であった。 今までの光の放出が、まるで嘘であったかのように、辺りは再び夜の 闇に覆われていく。 「 ――――― !!」 だが、終息しつつある金色の光の中で、ほんの一瞬・・・銀色の髪が、 閉ざされたままの瞼が僅かに動いたことに、彼女は気が付いた。 「 ――――― うそ・・・」 彼女の声に、ジェイクも驚くべき事実に気が付いた。 「・・・か ――――― ?」 不意の声に、当のアルルは目を見開いた。 「 ――――― アルル、無事・・・か?」 蒼く美しい瞳を薄く開けながら、確かにそう言った青年の身体を 抱きしめたまま、アルルは何度も頷いた。 その眼に大粒の涙を溜めたまま、涙に声を詰まらせるように・・・ あとがき・・・ さて(・・・本当は、別館掲載時には、この文の前に長々と色んな言い訳が書かれて いたのです)今回の話・・・悲痛でした。 自分で書いてて(爆) 結構あじって、キャラに感情移入しちゃうタイプなもので、ラストが わかってるくせに、『シェゾぉ・・・死なないでぇぇぇぇっ!』とか、 自分で浸っちゃったりして・・・ (おバカ・・・を通り越して、大バカ) とりあえず・・・ラストをお楽しみに☆ メニューページへ戻る 全ジャンル小説図書館へ戻る 『魔導物語・ぷよぷよ』魔導・ぷよ小説へ戻る |