『真実は 闇の中』






第三話 『小さな時計塔』



「そりゃ、無理ってもんだよお嬢ちゃん」

 人当たりの良い笑顔を浮かべ、男はそう答える。

 これだけ大きな街のギルドの責任者というくらいだから、相当の強面を想像していたアルルであったが、応対してくれたのは 所謂『気の良いオヤジ』風の男だった。
 アルルの他には、客らしい客は誰も見当たらない。
 時間的にはまだ早朝。
 急な依頼やトラブルに供えて窓口は開いているものの、実際にこの場が機能するのはもっと遅い時間からだろう。
 もしかするとこの男も、暇な時間帯を任されている単なる留守番なのかもしれない。

 アルルは依頼主の男と別れた後、その足でこのギルドを訪れることにした。
 実は、ギルドについては前日、例の自警団員に詳しく話を聞いていた。
 自警団とは反りが合わないらしく、あまり良い顔はされなかったが、場所くらいは知らなければ情報収集もできない。
 それでも昨日の時点では、彼ら自警団が手助けしてくれる以上、実際にギルドに出向くことになるとは思っていなかったのだが、 事件にギルドが関わっているとなると話は変わってくる。

「仕事・・・っていうのは、そういうものなんだよ」

 アルルを、どういう存在として認識しているのであろうか。
 年齢よりも若く見えるであろう彼女に対して、まるで子供に言い含めるような物言いに聞こえなくもないが、一方で彼女を 体良くあしらおうというような意図は感じられない。

「そりゃ・・・そうだけど。でも・・・」

 『情報を売る』こともギルドの役割の一つではあろうが、アルルの求めている情報は『討伐隊のメンバーの素性』・・・
 例え大金積まれたとしても、突然現れた余所者に漏らしてしまっては、ギルドの信用や存在価値に問題が生じかねない。

「じゃあ、知っていることだけでも・・・教えちゃってもいいかなぁ・・・ってことだけでも」

 知りたいことは、討伐隊に『シェゾ・ウィグィィ』が加わっていたかどうか。
 ただそれだけ ―――――

 至極当たり前のことであったが、アルルは彼を疑ってはいなかった。
 銀髪の人間は確かに珍しいかもしれないが、これだけ大きな街であれば幾人か見つけることはできるであろう。
 人間の街で普通に暮らす亜人や人に害を加えない魔物も数に加えれば、髪の色だけで個人を特定するのは早計過ぎる。

 いや、仮に彼が討伐隊に加わっていたかどうかはさて置き、例の村での出来事が真実であったかどうかも正直疑わしい。
 依頼主の男は『銀の髪の男こそ魔物』だと信じ込んでいるようだったが、その強過ぎる思い込みが彼の目を 曇らせている可能性もある。
 実際に、魔物は討伐隊の手で本当に倒されている可能性も否定できないのであるが、それを口で説明したところで、 恐らく彼はその事実を受け入れることはできなかったであろう。

 ――――― 第一、彼が『人間』であることはアルル自身が一番良くわかっていることなのだ。

 確かに・・・常人と比べて、かなり微妙な部分が多々あることは認めざるを得ないであろうし、 ある意味、魔物よりも性質の悪い存在であると言い換えることができなくもないところが辛いところではあるのだが・・・まあ、 それはこの際関係ない。

 とにかく ――――― だからこそ、まずは『彼が疑われない』ために、状況をはっきりさせておく必要があるのだ。

 本人に直接聞けば良いのであろうが、さすがに・・・昨日の今日では聞き難い・・・

「無理無理。お嬢ちゃんだけ特別扱いすることはできないし、他の大勢にも同じように何でも教えていたら、 ここで仕事を頼もうという人も、仕事をしようとする人も皆逃げていっちまう」

 親父の言うことは至極もっとも。
 アルル自身もそのことについては良くわかってはいた。

 シェゾが本名でギルドから仕事を請け負っている保障はないし、寧ろそうでない可能性の方が高いとは思われたが、 彼と共に仕事を請け負った者や、この場で彼を見かけた者がいれば容姿の特長を聞くことができる。
 それでもし、本当に彼が討伐隊に加わっていたとするならば、その時は ――――― 潔く、事件に関わった当事者として 情報提供を願い出れば良い。

「オジサンは・・・討伐隊の人達を見かけてはいないの?」
「見るも何も、そんな仕事があったかどうかも答えていないはずだがね」

 恐らくは失笑と共に、即答が返る。

 これ以上は無理だろう。
 百戦錬磨の冒険者の猛者達を毎日相手にしているギルドの窓口である。
 話術でアルルが太刀打ちできるはずもない。

「・・・・・・」

 ここでの情報収集は諦めた方が良さそうだ・・・
 アルルがそう思って引き下がろうとした時のことだった。

「そうだ・・・これは独り言なんだがね」

 不意に、親父がそう口にする。
 ある意味、絶妙のタイミングというヤツだ。

「ここいらの街では、人畜に被害を及ぼすような魔物の情報は全て役所で管理されているから、そんな仕事を請け負ったりしたら 報告書を提出しなくてはならない・・・まあ、形式上の簡単なものなんだがね、これが結構面倒な作業なんだよ」



 結局 ――――― アルルは、自らの逗留する宿の玄関先まで戻ってきていた。
 時刻は、恐らくちょうど正午。
 微かに時計塔からの鐘の音が聞こえてくる。

 実を言うと、ギルドで親父が親切に『教えてくれた』情報を頼りに、 まずは街の自治を取り仕切る役所に足を向けたのであったが、こちらも空振り。
 確かに親父の言う通り、役所では人畜に被害を与えた魔物に関する情報の管理は行われているようだったが、その閲覧には 許可を申請する必要があったし、その許可が下りるのには数日かかってしまうのだという。
 申請さえしておけば、数日後にはほぼ間違いなく一定の制限内での閲覧はできるとのことだったが、 さすがにそれでは遅すぎる。
 自警団の方から手を回してもらう方法も考えたのだが、昨日の団員との待ち合わせの時間はもう少し先。
 直接、彼の所属する詰所や本部に向かって交渉しても良かったのだが、本格的に自警団と行動を共にする前に、 シェゾに余計な嫌疑が向かないよう外堀を固めておきたい。
 実際問題として、その書類に討伐隊の素性が書かれているとは思えなかったし、これを見ることで討伐隊に 彼が絡んでいたかどうかを知ることはできるとは思っていなかったが、何らかの手掛かりになる可能性は否定できないのだ。

「・・・やっぱり、1時間ごとに鳴っているんだね」

 先刻、役所の窓口でも同じ音色を聞いた。
 例の報告書の閲覧許可を窓口に求めている時のことだっただろうか。
 自警団に頼めば、法規的処置での閲覧が可能になるとは思われたが、一応申請だけは済ませておこうと所定の用紙に 面倒な必要事項等を記入するのに手間取ったことを考えると、その時からすでに1時間経過していたのだろう。

「ボク的には・・・結構、好きな音色かも」

 大時計が奏でる軽やかな鐘の音は、人々が活動する時間帯に合わせて鳴らされているのだろうが、 街全体に時を告げるのが目的というわけではないのだろう。
 現に、その規模は小ぶりなもので贔屓目に見ても他の建物から頭一つ出ているかどうかといったところで、 その音量もかなり控え目でアルルが毎日通っていた図書館まで音色が届くことはなかった。
 宿を出るのが遅かった日や、逆に早くに宿に戻った日に数回聞いたことがあるだけであったため、普段からさほど気に 留めていたわけでもなく、決して聞き慣れた音色ではなかったものの、すぐに塔の鐘だと気が付いた。
 決して大きくはない鐘の音が聞こえるということは、この役所の位置が時計塔からさほど離れていないことを 意味しているわけで、即ちそれは彼女の逗留する宿も近くにあることを知らせてもくれた。

 ――――― 当然、彼も自室でこの音色を聞いているのだろう。

 不意にそう思った。
 だからといって、何の心境の変化があったというわけでもない。
 単純にそう思っただけ。
 ただ、アルルが宿に引き返そうと思い直した理由をあえて探すのなら、『この音色のせい』だったという以外、 他には考えられなかったであろう。

 さすがに正午に訪問して『時間を理由』に不機嫌になることだけはないであろう。
 昨夜は、それ程遅い時間ではなかったとはいえ寝入りを邪魔した上に、自分の都合だけで我を通そうとしたことに関しては 非常識な行為だったと、アルル自身も自覚している。

 意を決する ――――― とまで大それたものではなかったが、とりあえず大きく深呼吸してからアルルは宿に足を踏み入れる。
 一旦自室に戻るかどうかを僅かに逡巡したものの、そのまま彼の部屋へと続く廊下へと足を向けた。

「・・・・・・」

 途中、見慣れぬ男とすれ違う。
 逗留客ではなかったとは思うが、新しく来たばかりの顔までは知らないし、単に外の客がどこかの部屋の主を 訪問しただけなのかもしれない。

「あれ、でも・・・この先って」

 廊下の奥にはシェゾの部屋と、その隣室に留まる剣士の部屋のみ。
 シェゾはもちろんのことだが例の剣士も、 気軽に外からの来客を迎え入れるような雰囲気はなかったため、思わず足を止め僅かに首を傾げる。

「・・・ま、いっか」

 客が来たばかりというのなら遠慮しなくてはならないかもしれないが、帰ったばかりであるのならその心配はない。
 まあ、客の来訪理由によっては余計に機嫌が悪くなっている可能性がないでもないが・・・第一、今の客がシェゾの部屋を 訪問していたとは限らない。

(ほら・・・やっぱり、こっちの部屋だ)

 歩きながら、例の剣士の部屋の木戸が僅かに開いたままになっているのを見て、アルルはそう結論付ける。

(・・・今、留守なのかな?)

 普段の言動から判断して、来客が戸を閉めなかったことを容認するとは思えない。
 あの剣士が中にいるのであれば、今頃文句の言葉を叫びながら自分で閉め直すに違いない。
 先刻の軽やかな鐘の音色でさえも、耳障りだと宿の主に文句をつけるくらいの男なのだ。

「・・・・・・」

 悪いとは思いつつも、通り過ぎる際に戸の隙間から中を覗いてみる。

(やっぱり、いないみたい)

 部屋の隅々まで見えたわけではなかったが、人の気配は感じなかった。
 恐らくは、用心棒としての仕事中なのか、昼食をとりに外出しているのであろう。
 これで『隣室の話し声が五月蝿い』と文句を言われる心配だけはなくなった。

「 ――――― シェゾ、いる?」

 彼の部屋の木戸を軽く叩き、そう問いかける。
 返答はなかったが、少し間を置いてからアルルはそれを静かに開けた。

「・・・ああ、何か用か?」

 決して上機嫌とは言い難かったが、不機嫌でもないらしい。
 至って普通に・・・いつものように、彼はそう応えた。
 この時間に彼女が訪れることは珍しいことである筈なのに、驚いた様子も訝しがる表情も全く見せずに。

「うん。その・・・昨日のこと、謝ろうと思って・・・」
「・・・そんなことのために、こんな時間にわざわざ戻ってきたのか?」

 昨日の夕刻と同じように、窓辺に腰掛け古びた本を開いたまま視線のみを彼女に向ける。

「それだけ・・・ってわけじゃないんだけど」
「・・・昨日の話なら、断ったはずだが?」
「わかってる。でもボクだって後には引けないんだから」
「だろうな。そう言うとは思っていた・・・」
「・・・・・・」

 至極普通のやり取りであるはずなのに、どことなくぎこちない空気が重たくて ―――――

「ゴメンっ! 本っ当にゴメン!!」

 突然、髪を振り乱すかの勢いで頭を下げる。

「 ――――― ?」

 流石のシェゾも、突然の展開にその目を丸くする。

「ゴメンって言葉・・・自分が悪いってわかっていて、自分から言えないことがこんなに嫌な気分になるなんて・・・ボク、 知らなかった」

 勢いに任せて早口でそう告げる。

「・・・自分がスッキリしたいから謝るのって、やっぱりそれも良くないことだけど、だからってちゃんと謝らないわけにも いかないから・・・」
「別に・・・こっちは、そんなこと気にしちゃいないがな」

 今まで気負っていたのが馬鹿らしくなるくらいの、いつも通りの口調。
 やはり、昨夜は何らかの理由で極端に機嫌が悪かったのだろうか。
 いや、寧ろ彼は昨夜もいつも通りで、単に自分の方が舞い上がって周りが見えなくなっていただけなのかもしれない。

「良かったぁ。じゃ、これで仲直りだねっ」

 まるで子供のようなアルルの屈託のない笑顔を見て、シェゾの方も僅かに笑みを漏らす。
 『笑み』というよりは鼻先で笑い飛ばしたかのような表情もその仕草も、アルルが知る普段通りの彼のもの。
 かといって、彼が簡単に前言を翻して手助けしてくれるとは思わなかったが、それは別の問題である。

「・・・で、本題の用件は何だ?」

 全てはお見通しといったところだろうか。
 だが、その方が話は早い。

「うん。情報収集。昨日の話なんだけど・・・キミがイヤだって言うんなら、これ以上は手を貸して・・・なんてもう 言わないからさ・・・だから、キミの知ってる情報が欲しい」

 口に出してみてから気が付いたのだが、部分的に妙に聞き慣れたような言い回しを使ってしまった。

「情報・・・?」

 一方の彼はというと、その言い回しに気が付かなかったのか、話の先を促すかのようにそう返す。

「・・・昨日の人から詳しい話を聞いてきたんだ。あと、偶然・・・っていうか成り行きなんだけど、 自警団の人達も手伝ってくれるって」

 嘘はつかない。
 彼の前では余計な小細工なんて何の意味も持たないのはわかりきっている。
 それ以前に、単純に嘘をつきたくなかった ――――― というのが本心。

「・・・そりゃ良かったじゃねーか」
「でね、その魔物はギルドでも討伐を依頼されていたらしくって、詳しい話を聞こうと思ってギルドに行ったんだ。 その依頼を受けた人達に話を聞かせて欲しい・・・って思ったから。でも、教えてもらえなかった」
「まあ、当然だろうな。ギルドってのはそういうもんだ」

 口調こそは軽口に近いものであったが、僅かに眉を顰めたように感じたのは気のせいだったろうか。

「・・・で、簡単な報告書・・・ってのなら、役所で見せてもらえるらしいから、閲覧の申請はしてきたんだけど・・・」
「自警団使えばもっと楽に情報を集められるんじゃないのか?」
「それも考えたけど・・・やっぱり、ボクは・・・直接話を聞きたい」

 僅かに間を置いて、更にこう続けた。

「もしかして、キミ・・・その討伐隊のメンバーだったんじゃないの?」

 更に一瞬の間 ―――――

「はっ、何を突然言い出すかと思えば・・・」
「違うんならそれで別にいいよ。キミに似た人が討伐隊にいた・・・って話を聞いたから、一応確認したいだけ」
「仮にそうだとしても・・・俺が答えることはできないな。ギルドが漏らさなかった情報を、 俺が漏らすわけにはいかないだろう?」

 つまりは、討伐隊に所属していた ――――― という意味なのだろうか。
 ギルドに関わってすらいないのなら、彼がギルドに義理を通す必要はないはずだ。
 だが、彼は単なる一般論として述べているに過ぎないだけなのかもしれないし、 討伐隊とは別の形でギルドと関わりがあるのかもしれない。
 ギルドでは、盗みや暗殺のような後ろ暗い仕事を斡旋することもあるだろうし、逆に人海戦術の ドブさらい・・・なんて仕事まで取り扱っているはずだ。
 両極端なこれらの仕事を請け負ったのなら、さすがに進んで口外はしたくないだろう。

 だが ―――――

「用件はそれだけか?」
「あ、うん。そうなんだけど・・・」

 ――――― 話を終わらせたがっているような気がする。

 顔色一つ変えず、口調すらもいつものまま。
 普通の人間ならば『自分に似た人がいる』という話には少なからず興味を抱くものであろうが、彼の場合は無関心に一蹴しても 何の違和感もない。

「なら、もういいだろう? 少し仮眠をとろうとしていたところだ・・・」

 つまりは『もう部屋から出て行け』という意味。
 ――――― 昨日は、あんなに早寝していたくせに。

「・・・お昼ごはんは、もう食べたの?」

 また喧嘩になるのも面倒だから、余計なことは言わないでおくことにする。

「いらん。大して動き回ってもいないしな」
「そう。じゃ夜は? ボク、ちょうどいい時間には戻って来ないと思うけど、キミさえ良ければ・・・」
「そんな暇、ないんじゃないのか? 自警団まで巻き込んでおいて、自分だけのんびりメシ食うつもりかよ」

 そう言いながら、気だるそうに前髪をかき上げながら足を組みかえる。
 演技なのか、本当に眠いだけなのか・・・

「 ――――― あ」

 組み換えた膝か、それとも手が当たったのだろうか、開かれていたままになっていた本がゆっくりと滑り落ちた。

「・・・・・・!」

 無意識に、双方がその手を伸ばす。

 いわゆる『ありがちな展開』のように、互いのその手が ――――― 触れ合うようなことは決してなく、 当然落ちた本に近い位置にいたシェゾが先に拾い上げた。

「それくらいボクが拾ってあげたのに・・・ところで、それって何の本なの?」

 結果として、悲しく空を掴むことになってしまった自らの手をそのまま戻しながら、アルルの視線は目前の本を追う。

「・・・さあな。ただの気晴らしに読んでいるだけの本だ。内容なんて気にしちゃいねぇよ」

 昨日読んでいたのとは恐らく違う本。
 単に大量の文字を読み流しているだけだから内容を気にしていないとも言えるのだろうが、やはり一日中旅先の部屋に篭って 本を読み続けるというのは不自然な行為に思われてならない。

「難しそうな本だけど・・・そんなの、面白いわけ?」

 言いながら、色褪せた表紙に刻まれたタイトルを読もうと、その場に屈むかのようにして覗き込む。

「だから別に面白いとかそういう意味じゃなくてだな・・・」
「 ――――― !!」

 息を呑む音は当然彼にも聞こえたに違いない。

「・・・どうか、したのか?」
「う、うん・・・なんでもない。本のタイトル見ただけで頭痛がしてきたよ・・・」

 辛うじて、声は上ずってはいない。
 恐らくは一瞬にして青冷めたであろう自らの顔色も、引きつったその表情も、 今の屈みこむ姿勢が幸いして彼の側からは見えていないはずだ。

「いくらなんでも、そりゃ大袈裟だろ」
「そう・・・かな? 元々ボク、本読むのって・・・苦手だし・・・」

 何とか息を整えて、作り笑いと思われないような自然な笑みを意識しながら顔を上げる。

「魔導師が本嫌いでどうする」
「ま、まあ・・・そうなんだけどね・・・あっ、ボク・・・急いでいるんだったっけ」
「だからさっき、そんな暇ないだろう・・・といったんだが?」

 溜息交じりに彼が答える。

「そ、そうだね・・・とにかく、そろそろ行くね。・・・ごはん、落ち着いてから一緒に食べに行こう」

 急いでいるのは本当のこと。
 身を翻して、大袈裟なくらいに騒々しい足音と共に彼の部屋から走り去る。
 不自然過ぎる行動だったかもしれないが、今更どうしようもあるまい。

 ――――― 屈み込んだ視線の先には、古びた本を拾い上げた彼の右手・・・
 偶然にも窓から差し込むその日差しが、袖口の奥を一瞬だけ見せてくれた。

 まるで、意図的に作ったのではないかと思われるくらいに不自然な形の火傷の痕。


 そして ――――― 焼け爛れた皮膚に隠されているかのような、二つの牙の痕を ―――――






『真実は 闇の中』 第四話に続く・・・

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あとがき・・・


 予定よりちょっと長くなってしまいました・・・
 1話1話は短めに押さえたかったのですが、やっぱりキリの良いところまで書きたいし・・・って事で。
 そんなわけで、あとがきは短めに。  





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