『おなかがぐ〜』






第九話 『わが守護太古の神よ・・・?』



「わーい☆ いい天気ーっ☆」

 大きく伸びをしながら青空を見上げるアルルの足取りは、いつになく軽やかだった。
 それもそのはず、今日はカレーショップは休業日。
 ・・・というか、唯一普通に使えていたはずの水道が工事のために一時的に使えなくなった しまったがための、やむを得ない措置ではあったわけであるが・・・

「滅多にお休みなんてないんだもん☆ 楽しまなきゃ☆」

 ・・・というわけなのである。

 ちなみにこの水道工事の費用は町の負担となるので、ビンボーなアルルも安心である。

「・・・遊園地なんて久しぶりー。ね・カーくん☆」

 アルルの楽しげな言葉に肩の上の相棒も上機嫌である。

 彼女達がやってきたのは、『元』わくぷよランド。
 以前はサタンが道楽(?)で作り上げた(というか、そう仕向けられたというか)ちょっと 普通でないアミューズメントパークであったが、今では至極普通の遊園地と化している。

「ジェットコースターも乗りたいし、あの新型絶叫マシーンも楽しそうだけど・・・」

 思わずアルルは言葉を区切る。

(一人で乗っても、ちょっと・・・ね)

 そう・・・カーバンクルを連れたままで、それらの乗り物に乗ることは できるはずもない。

 アルルとて、最初からそのくらいのことはわかっていた。
 だから他の友人達にも声をかけてはみたのだが、ルルーはサタンのため(?) の修行とかで山篭り中。
 ドラコはまた何処か遠くの美少女コンテストに 参加するために出かけてしまった。・・・また、無理矢理拉致されなかった だけでも、良しと考えるべきだろう。
 さすがにセリリと絶叫マシーンはムリだろう・・・と、あえて彼女は 誘わなかったが、このことがバレた時は大変なことになるだろう・・・
 こんな時に限って、ウィッチもハーピーもスキュラさえも都合がつかず、 結局アルルは一人でここにやってきたのであった。

「シェゾも、いなかったし・・・」

 時々は店にやってくる彼を誘っても良かったのだが、ここ数日こういう時に 限って店を訪れることはなく、今日も出かける『ついで』と称して、ちょっと 遠回りして彼のところへと寄って来たのだが、生憎と留守であった。

「ま、仕方ないかー。あ、カーくん、 あそこ!! 何だか人がいっぱい集まっているよ!!」

 人が集まっているということは、楽しげな催しがあるはずである。
 遊園地の楽しみ方は乗り物だけではないのだ。
 言うなりアルルは、その人だかりになっている仮設テントの方へと駆けていった。

「あ、アルルさんっ!!」

 テントの中を覗き込もうとアルルが背伸びしていると、不意に横から 聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれ〜 チコ! 久しぶり〜」

 見るとそこには、アルルよりずっと小柄な彼女が、人波に押されかけている。

「チコもここに来てたんだー。ねぇ、ここってさ、何やってる所かわかる?」

 あまりの混雑ぶりに、アルルもこれ以上この場で覗き込むのは無理だと 判断したのだろう。
 僅かに後方に下がりながら、そう問いかける。

「ここは先日できたばかりの新しいアトラクションで、簡単なゲームをして景品をゲットできる ・・・ってとこなんですけど、どうもその景品ってのがウチの神殿に関わりのある物が 混ざっているらしくって・・・」
「ふーん、じゃキミはまた、おばあさまの言いつけでここに来たんだ。 ・・・それにしてもすごい人気だねー」
「ええ、魔導アイテムや、かなりの貴重品も景品に含まれているみたいなので・・・」
「魔導アイテム・・・?」

 チコの言葉を聞いて、アルルは僅かに考えを巡らせる。
 そして・・・大きく息を吸い込んだかと思うと・・・

「ヘンタイっ!!」

 ただ一言目前の人の群れに向かって、そう言い放った。

「なんだとーーーーっ!!」

 すかさず返ってきた返事はやはり・・・

「やっぱり・・・最近見かけないと思ったら、ここに入り浸っていたんだね・・・」

 この人ごみの中、どのような手段をもってここまで素早く出てきたのかは わかりかねるが、とにかくものすごい勢いで彼女達の前に現れたのは、 もちろんシェゾ・ウィグィィその人であった。

 その後、例によって『お前がほしい』攻撃に『ジュゲム』で反撃・・・ という、お決まりのコースを経る事となったわけではあるが・・・

「へー、簡単なゲームで商品をゲット・・・って、つまりはUFOキャッチャー のことだったんだぁ」
「他にもいろいろあるがな。お前らならこのくらいの方がやりやすいだろう」

 結局彼の案内で、一緒にテントの中に入ることになったのだが、 相変わらず辺りは相当の混雑ぶりである。
 シェゾの言う通り、テント内には他にも様々な腫のゲーム機が設置 されており、それぞれに景品が設けられていたわけであるが、 その景品も千差万別で、恐らくシェゾが狙っているであろう見るからに魔導 アイテム的なものや、極普通のアクセサリー類、そして土産物や玩具・駄菓子に 至るまで、節操なく詰め込まれている・・・といった観である。
 シェゾ自身が狙ったお宝をゲットできたのかという質問は、恐らく 愚問であろうから、あえて避けることにして・・・

「チコはどうする? これじゃどれがチコの神殿に関係あるアイテムなのかも わからないと思うけど・・・試しにやってみる?」

 カーバンクル的には、ケースの中の駄菓子にしか目が行って いないのであろう。人の波に振り落とされそうになりながらも、 ただひたすら目を輝かせているようである。

「そ、そうね・・・ダメかもしれないけど、とりあえず頑張ってみなきゃ」

 一大決心をしたチコが、財布からコインを一枚取り出して目前の投入口に 入れようとしたその時である。

「ぐーっ!!」
「・・・あっ!!」

 突如アルルの肩からカーバンクルの舌が伸びてきて、チコのコインを 絡め取ろうとしたのである。

「だめだよ! カーくんっ!! これは食べ物じゃないんだから・・・」

 偶然人の動きで体が大きく揺れたため、コインがカーバンクルの胃袋に 収まる事にはならなかったが、結局それはチコの手から滑り落ち、テントの隅 の方へと転がっていく。

「あー・・・もうっ!! チコ、拾いに行こう!」
「は、はいっ」

 人々の足元をすり抜けるように転がっていくコインを追いかけて、アルル達は ようやくテントの隅に雑然と詰まれてある大きな木箱の横に辿り着く。

「あ、あったあった☆」

 今度はカーバンクルに食べられることのないよう、チコは用心しながら それを拾い上げたのだが・・・

「・・・えっ!?」

 その瞬間、チコの顔が青ざめたのは当然のことであろう。

「う、うっそーっ!!」

 コインを拾うために屈みこんだ際に、横に詰まれていた木箱に体が 触れたのであろう。
 ゆっくりとその木箱は崩れ落ち、中に入っていた様々な物がぶちまけられる という結果になったのである。

「きゃあぁぁぁっ!!」

 更に不運なことに、箱の中身は景品用と思われるカラーボールであった。
 混雑し合ったテント内に散乱したボールは、 次々に人々の足元を掬っていく・・・
 一人が転ぶことでその周りの人々も転び、結果、ゲーム機や他の木箱までもが 倒れはじめ、その中に入っていた景品も辺りに散乱する。

「ど・ど、ど、どうしよう・・・大変な騒ぎになっちゃったよぉ」

 テントの隅にいたアルル達に直接の被害はなかったものの、 この騒ぎの責任は彼女達にあるわけで、チコの狼狽も当然のものであるが・・・

「きゃっ!!」

 またしても別のゲーム機が倒れ、中の景品が勢いよく彼女達の方に零れ落ちてきた。
 さすがに今度は2人とも足をとられてその場に転んでしまう。

「い・・・いったぁい」

 転んだ際に、膝に何か硬いものが当たったのだろう。
 顔を顰めながらチコは、無意識の動作でその硬い物体を取り除こうとする。

「・・・あ、あれ?」

 アルルは不意にチコの掌中に目を留めた。

 大地に映える新緑の輝きを思わせる、深く神秘的な色の宝玉・・・

(・・・もしかして、ううん。きっと間違いないっ!!)

 僅かに思考を巡らせた後、アルルは自らの宝玉を取り出した。

「チコっ!! 説明は後でするから、ボクと同じようにその石を こうやって胸に当ててみてっ!!」

 突然の意味不明の言動に呆気にとられていたものの、アルルの気迫に 押されてか、チコは反射的にその手の中の宝玉を胸元に当てる。

「え・・・っ?」

 アルルの思惑通り、その宝玉は眩いばかりの光を放ち、光に包まれたチコの 体は例に漏れず変身を遂げる。

「え? え? え? これって一体っ!!」

 自らの中に高まる不思議な力に対してなのか、突如変化したコスチュームについて驚いている のかは判断しかねるが、チコは先刻以上に混乱しているようだった。

(よく考えたら・・・これが当然のリアクションかもね・・・)

 コスチュームがかわいいといって喜んだセリリや、『火消し』に夢中に なっていたドラコ・・・

(そう言えば、ボクもちょっとは驚いたけど、なんだか当たり前の 出来事のように受け止めちゃっているし・・・)

「なんなの? なんなの? アタシ一体どうなっちゃったの〜っ!!」
「だからっ! ボクもこの石で変身できてね・・・」

 アルルがいくら声をかけてみても、チコの混乱はなかなか収まらない。
 いや、むしろエスカレートしていくようであった。

「ああ、おばあさま〜っ!! チコはチコでなくなってしまったのね〜っ!!」
「・・・・・・」

 まるで天を仰ぎ見るかのようなポーズで絶叫したかと思ったチコは、 突然そのままの姿勢で地面に散乱する景品の山の中に倒れこんだ。

「・・・一体、何のために変身したんだよぉ・・・もうっ!」

 僅かに赤く腫れ上がった自らの手の甲と、チコの頭上の出来立てのコブを 見比べながらアルルは呟いた。

「・・・ってことは、この騒ぎはボクがなんとかしなくちゃならないってことだよね・・・」

 溜息をつきながらアルルは視線を前方へと戻す。

「あ・・・れ?」

 アルルがチコの相手をしている僅かな間に、全てのゲーム機は既に倒壊しており、人々もなんとか 避難したのか、その場には散乱した景品や種々の残骸が残されているのみであった。

(・・・なんだ、変身しなくても良かったじゃないか)

 自らに毒づいて、アルルは自分の、そしてチコのブローチを外して変身を解いた。
 ちょうどその時である。

「テントが倒れるぞーっ!!」

 外から叫び声が聞こえた。
 そう、テント内部にはもう何も倒れるものは残っていなかったのであるが、 肝心のテントそのものが残っていたのである。
 鉄製の支柱や梁を用いたこのテント、このままここにいては 危険であることに間違いない。

(うっそ・・・間に合わないって・・・!!)

 シェゾでもいれば転移魔法で脱出することも可能であるが、この騒ぎが 起きる前に逸れてしまっている彼が、アルル達が内部にいることに気が付く術はない。

(・・・もう、ダメっ・・・!!)

 ゆっくりと倒れてくる支柱と天幕が視界に入ったその瞬間であった。

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 突如、聞き覚えのある気合の声・・・
 そして声と同時に、今まで彼女達に覆い被さろうとしていた筈の巨大な テントが吹き飛ばされていくのが見えた。

「ル・ルルーっ!!」
「あら? アルル・・・あんたこんな所で何やってるの?」
「ルルーこそ・・・山篭りじゃなかったの?」

 土埃で真っ黒になった顔を軽く擦りながらアルルは逆に問いかける。

「もちろん山篭りよ。・・・ここの遊園地の『ファイヤーマウンテン』でねっ」

 近くに聳え立つ、アトラクションの火山を指して、 彼女は不敵に微笑んだのだった。



 一方、その頃のサタン様は・・・

 突然空から降ってきた、巨大なテントに押し潰されて、ばたんきゅ〜状態だったとか・・・

 そして・・・

「ん? 何だこのゴミ溜は・・・」

 彼は至って機嫌が悪かった。
 今日こそは魔導アイテムをゲットしようと意気込んでいたというのに、 突如起きた騒ぎで遊園地は早々に閉園してしまったのである。
 しかも彼が通ろうとした近道を塞ぐように、謎の物体が放置されているのだ。

「なんだかさっきのテントの柄に似ている気がする・・・余計腹が立って きたっ! アレイアードっ!!」


 ・・・こうして巨大なテントの残骸とその『中身』は、木っ端微塵になったとか・・・





『おなかがぐ〜』 第十話に続く・・・

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あとがき・・・


 またしても不運なサタン様・・・この話の恒例となっております(笑)

 そして、とうとうチコも変身!
 この役は、ルルーの方が適任じゃないか・・・って説もあったんですけどねー。
 コンセプトは『よ〜ん』キャラを使うってところにあったし、ルルーはルルーで別の大事な 役についているわけだし・・・(苦笑)

 ・・・と、いうことは・・・次は『誰』なのか・・・おわかりですね?





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