『おなかがぐ〜』






第八話 『ボクの使命・・・』



グラスに注がれた水に、窓からの光が乱反射する。
 飛び散った光は、塵はもちろんシミ一つなく磨き上げられたカウンターの手入れの良さを 象徴するかのように、滑らかな動きを見せている。

「・・・つまり、掃除しかすることのないお店・・・ってことだよね」
「ああっ、ドラコさん、そんな言い方ってないですぅ・・・お掃除って、とっても大変なんだ ・・・って、ある方が言ってました。こんなにピカピカにカウンターを磨くのだって、 とってもいっぱい時間がかかったはずなんですよぉ」

 セリリの言う『ある方』が誰であるかという事実はどうでも良いことである。
 それよりも問題なのは・・・

「・・・キミ達、ボクをイジメに来たわけ?」

 そうは言っても、結局アルルは、先刻からひたすら空のグラスを磨いている だけで、他にこれといった仕事もないのであろう。

「そんな・・・今日は、ドラコさんの発案で・・・」
「そうそう、あたし達『魔導美少女戦隊(仮)』の今後の活動方針を決める ・・・っていう、大事な会議中なんだから」

 そんな『大事な会議』をカレーショップのカウンターで、しかもカレーを食べながら執り行う ・・・というのも妙な話であるが、『客がいない店』での会議なので、隠密性の 保持・・・という利点も否めない。

「ま、いいんだけどねー。ボクだって、この宝玉の謎とか、わかんないことが いっぱいだし・・・だってね、ルルーがコレを胸に当てた時にはなんにも 起こらなかったんだよ。・・・きっと、何か秘密があるんだよ」

 ピンクパールの宝玉は、初めて彼女がそれを手にした時と同じように、 美しい輝きを絶やすことはなかった。

「だからぁ、あたし達は『選ばれた存在』なの。・・・真の持ち主の元でのみ 宝玉は輝きを増す・・・ってカンジかな」

 自信に溢れたドラコの台詞の根拠は全くもって謎であるが、一理ないわけ でもないのは事実。

「でもさぁ・・・」

 と、視線をセリリに向けてドラコが続ける。

「あんたって、戦闘能力ほとんどないのに、どうして『美少女戦隊』の一員な わけぇ?」

 この『美少女戦隊(仮)』というネーミングセンスはもちろんドラコのものであるが、『戦隊』 ・・・と銘打っているからには、ドラコ的には何かと戦うつもりがあるのだろう。

 『戦闘能力』の有無に関しての解釈は、某ゲーム内においては成り立たない ものなのであろうが、この『世界』でのセリリは、あくまでも・・・か弱く 可憐でちょっぴり(?)被害妄想気味な女の子なのである。
 確かに鱗魚人という種族は、魔導力に似た潜在的な能力を持ち合わせている ものであるが、今のセリリが自力でそれを使いこなせないのは周知の事実。

「ひ・・・ひどい・・・」
「ドラコっ!! 今のは言いすぎだよっ!!」

 これではセリリでなくとも、涙を浮かべるのに無理はない。

「あ、悪い。・・・言い方が悪かったね、気にしないで」

 さすがのドラコもすぐに詫びる。

「つまりさぁ、どういった過程で、その宝玉を手に入れて変身できるように なったのか・・・ってとこを知りたいな、って思っただけなんだよね」

 そう、よく考えてみると、変身後にお互いがじっくりと話し合う機会はこれが 初めてなのである。

「あの・・・それは・・・」

 セリリは第6話での出来事を簡潔に話して聞かせた。

「え、ちょっと待ってよ。・・・ってことは、セリリの宝玉って、拾い物 ってこと? それってマズイんじゃない?」
「・・・どういうことですか?」
「だって、落とし物は、ちゃんと交番に届けないとダメじゃな〜い? ・・・ 良い子はマネしないでね☆ ・・・ってカンジ」

 ドラコのその台詞を聞いたセリリの瞳に、再び涙が浮かび始める。

「ちょい待ちっ!! セリリが宝玉を拾ったのは、自由にトレジャーハント することが許可されていた遺跡でだよ。遺跡の中の物は『誰のもの』って わけでもないんだから、別にいいんじゃないかなぁ・・・」

 厳密に良いかどうかを判断するのは非常に難しいところであるが・・・ 現実世界において、この小説を読んでいる良い子のみんなは、落し物を 拾ったら、ちゃぁんと交番へ届けようね☆ 約束だよっ☆ (笑)

「だいたい、それを言うんなら、ドラコの方が問題だよっ」

 突然向いた矛先に、ドラコは呆気にとられたかのような表情でアルルに視線を向ける。

「だって、ドラコの場合、コンテスト会場の賞品保管室の中から勝手に 持って来ちゃったわけでしょ?」

 そう、よく考えるとその通りなのである。

「・・・あん時は、火事騒ぎで成り行きにまかせて持って 来ちゃったんだけど・・・よく考えたら、ドロボーと同じだよっ!!」

 アルルの台詞にドラコの表情が曇った。

(あ・・・言い過ぎちゃったかな・・・?)

「アルルにそう思われていたなんて、心外だな・・・」

 目を伏せたまま、ドラコはゆっくりと口を開きそう答えた。

「だってさ・・・」
「ご、ごめん・・・ドラコっ! ボク、そんなつもりじゃ・・・」

 そう言いかけたアルルを遮るかのように、突然ドラコは立ち上がり、 今までにない位強い口調で言い放つ。

「だって、あのコンテストであたしが優勝するのはわかりきっていたことなんだから、賞品を 前もって貰っておいたって、なぁ〜んの問題もないじゃない!!」

 『文句ある?』・・・と、言わんばかりのドラコの態度に、アルル達は もはや何も言えなかった。
 そして、わざわざ言うまでのこともないのであろうが・・・

 『良い子は絶っ対、マネしないでね☆』(笑)

「で、アルルは?」
「ほえ?」

 ドラコの問いにアルルは、思わずマヌケな声を漏らす。

「そういえば私も、アルルさんの宝玉についての話は聞いたことがないですぅ〜」

 ようやく平常心を取り戻したセリリも、ドラコの問いに興味を示しているようだった。

「ボク? ・・・べ、別にいいじゃない」

 視線を泳がせながら、アルルは再びグラス磨きにとりかかる。

「あ、怪しい・・・自分こそ、何かヤバイ手段でそれを手に入れたんじゃないの?」
「そんなことないって、ボクの場合話す程のことが何もないだけで」

 適当に話をはぐらかそうとしているアルルの目の前に、ドラコが握り拳を突き出した。

「・・・?」
「アルル、白状しなさい。あたし達だけに話をさせて、自分だけ内緒だなんて、 ムシが良すぎるよ」

 そう言いながら、ゆっくりと開いたドラコの手のひらには、いつの間にか アルルの宝玉が乗っていた。

「・・・教えないと、返してあげないもんね☆」
「ああっ! いつの間にっ!! 返してよぉっ!!!」

 コンテスト会場での時のことといい・・・ やはり、ある意味スキュラよりタチが悪いのかもしれない。

「やーだね。話してくれなきゃ返さないよっ」

 アルルは、カウンターから身を乗り出してドラコに手を伸ばすものの、 素早く彼女は席を立ってしまった。

「ち、ちょっとぉっ!!」

 すぐにアルルも外側に回り出て、ドラコに飛びついた。

「あたしに腕力でかなうなんて思わない方がいいよ。・・・それともまさか、 大事なお店の中で、魔法をぶっ放してみるつもり?」

 半ば冗談なのだろう。楽しげにドラコはアルルをからかっていたものの、セリリは知っていた。
 アルルが、オープン初日に店内でジュゲムをぶっ放していたことを・・・
 ちなみに、彼女の電動タライは大き過ぎてドアから店内に入れないため、 今では、その際に壁に開いた大穴が、彼女の専用入り口と化していたわけであるのだが・・・

「け、ケンカはやめてくださいっ!!」

 急な展開に焦ってしまったセリリには、こう言うのが精一杯のようだった。

「・・・何をしているんだ?」

 不意に別の声がかけられる。

「し、シェゾぉ!」

 セリリの語尾には、『さん』という敬称がついたようであったが、3人の 台詞はほぼ同時のものであった。

「珍しく店内が賑わっていると思ったら・・・何の騒ぎなんだ、これは」

 ドアから一歩入ったところで怪訝な顔をしたまま立ち止まっている彼に、 最初に声をかけたのは、なんとドラコであった。

「そうだ、あんたなら知ってるんじゃない?」
「・・・? 何のことだ?」

 突然の質問に、シェゾは呆気にとられながらも、ドラコの方に視線を向ける。

「アルルのさぁ・・・」

 ドラコが体一つ乗り出して、彼にそう訊ねようとした、まさにその時のことである。

「・・・じゅげむっ!!!」

 半ば予想していたものの、突然のアルルの魔法にセリリが 目を見開いたことは、言うまでもあるまい。
 そして、無邪気な微笑を浮かべたアルルは振り向きながらこう言った。

「よかった、今度は壁に穴が空かなかったよ☆」

 容赦なく放たれたジュゲムの威力は、ちょうど空いたままになっていたドアを 通って、はるか彼方にまで放物線を描いていた。

 そう・・・ちょうど、ドアを開けたところに立ち止まっていた、一人の 闇の魔導師の体を軌跡に変えて・・・

「あ、そうそう。言い忘れてたけどぉ、一応会議って名目だったし、 カレー代の消費税分くらいはまけとくからね」

 思い出したかのように、アルルがそう言って再び微笑んだ。

「・・・え、これって、アルルさんからのオゴリだったわけじゃ・・・」
「何言ってんの。ボクの仕事は『カレーショップ』なんだよ。カレーを 売って、その代金を貰うために店を開いているんだからね」

 戸惑うセリリを制したドラコは、微笑みの表情を絶やさずそう告げるアルルに宝玉を返しながら、 引きつりつつも笑顔をみせた。
 そして・・・素直にカレー代を支払った・・・らしい。



 一方、その頃のサタン様は・・・

「久々に、体の具合も良いし、今日は迷わずアルルの店に来ることができたぞ」

 そう、お気づきの方も多いのではないかと思うのだが、実を言うとサタン様、 アルルのカレーショップに、まだ一度も来店したことがなかったのである。
 折りしもこの時店内では、中でドラコ達との大騒ぎをやらかしている 最中であったわけであるが、気分絶好調のサタン様がそれを知る由もない。

「さあ、我が妃よ・・・」

 ドアが開かれたままになっていることをいいことに、両手を広げて 勢い良く店内に走りこもうとする。
 ・・・が、その時。

「・・・じゅげむっ!!!」

 店内からの声と同時に、サタン様の身体に大きな衝撃が走る。
 直接魔法を浴びたのとは全く違う衝撃・・・

 そう、例えるなら、魔法で吹っ飛ばされてきたヘンタイ魔導師がぶつかって きて、その勢いごと自分もお空の彼方に飛ばされているような・・・

「・・・って、『例え』でなく、現実かぁぁぁぁぁっ!!!」


 この日、サタン様は、遠くのお山で、アウトドアな1日を過ごすこととなった・・・





『おなかがぐ〜』 第九話に続く・・・

一つ前の話を読み直す





あとがき・・・


 以上、閑話・・・でした。

 やっぱり舞台はカレーショップですからねー。いつの間にか『戦隊モノ』へと路線変更(?)した とはいえ、やっぱり元々は『カレーショップのお話』ですから・・・!

 でも、次は・・・やっぱり戦隊モノになっちゃうんです・・・(笑)





TOPへ戻る

メニューページへ戻る

全ジャンル小説図書館へ戻る

『魔導物語・ぷよぷよ』魔導・ぷよ小説へ戻る