『おなかがぐ〜』






第十話 『登場させていただきますわ〜』



 『美少女戦隊・秘密会議中のため貸切』

 常識的に考えたら、明らかに非常識なこの貼り紙。
 アルルのカレーショップの入り口にこれを貼り付けたのは、もちろんドラコである。

「でも、他に誰もお客さんも来ないみたいだし、貼り紙を見られて秘密の会議していることが バレたりする心配もないし、安心ですね」

 ・・・とは、セリリの台詞。

 どうも論点がずれているような気もするが、あまり深く考えても疲れるだけであるから、 アルルもあえて突っ込むようなことはしない。
 どうせ『会議』といったって、単なる無駄話に過ぎないのだから・・・

「さすが、美少女戦隊の秘密基地ですね。流行らないカレーショップを装っているなんて、 誰も思いつかないことだと思うもの」

(・・・別に、『装っている』わけじゃないけどね・・・)

 無言のまま冷たい視線をチコに向けながら、アルルはいつも通りにグラスを磨く。

「じゃ、今日の議題ね!」

 一人、妙な使命感に燃えているドラコがいつも通り口火を切る。

「どうも最近、あたし達の偽者が出没しているらしいんだけど・・・やっぱ、これって 問題だと思わない?」

 いつもの他愛ない『議題』とは多少趣旨の異なるその台詞に、一同は一瞬呆気にとられる。

「・・・偽者ですか?」
「そう。あたし達のフリして、敵と戦ってるヤツがいるらしいんだ」
「なんだか、気味が悪いですね」

 セリリやチコは、ドラコの話をまともに取り合っているようだったが・・・

「あのさぁ、それって・・・ルルーのことじゃないの?」

 賢明な読者の皆さんは、すでにお気づきのことかもしれないが、今までにアルル達・美少女戦隊 (ドラコ命名)が事件に巻き込まれ、変身する機会は幾度かあったものの、結局何一つ事件解決に 貢献するようなことはなく、全て偶然居合わせたルルーが力技で解決している・・・というのが、 現実なわけで・・・

「違う違うっ。だってルルーは堂々とやってるじゃない。そうじゃなくって、あたし達みたいに 秘密に敵と戦っているらしいんだって」

(だから、ボク達は敵となんて戦っていないんだってば・・・!!)

 アルルの心の叫びを取り合ってくれるものは、当然ながらこの場にはいなかった。
 結局、ドラコの言うがままに、その『偽者』を捕まえるための作戦を 決行することになってしまったのである。

 しかし・・・誰にも正体どころか存在すらも知られることなく、しかも全く活躍することもない、 自称『秘密・美少女戦隊』の偽者など、常識的に考えて存在するはずはないのだが・・・

「・・・ま、退屈だから、いいか☆」


 その日の夜。
 ドラコによると、今夜、この神殿前にその『偽者』が現れるのだという。

 この神殿・・・シェゾがアルルの宝玉をみつけ、セリリが偶然自らの宝玉を拾った 神殿である。
 また、後に調べてわかったことであるが、ドラコが美少女コンテストで(勝手に)ゲットした 宝玉も、チコが遊園地の景品で(勝手に)貰ってきてしまった宝玉も、この神殿で トレジャーハントされたものが転売されたものらしかった。
 ある意味、非常に縁のある場所であることには違いないわけであるが・・・

「でも、どうしてその『偽者』がここに現れる・・・ってわかったの?」

 アルルは素朴な疑問をぶつけてみる。

「だって・・・見てよ!!」

 勝ち誇った顔で、ドラコはなにやら紙切れを取り出した。

 『偽者へ。正々堂々と勝負よっ! 美少女戦隊より』

 思わず全員で音読してしまったその文章・・・
 新聞の切り抜きにかかれたものであった。

「挑戦状っていうわけね? ドラコさんっ、サスガです〜」

 すかさず、目を輝かせてチコが言う。

 呆気にとられているアルル達に構いもせずに、褒めちぎるチコの表情から考えても、 単なるノリやギャグなどではなく、大真面目で言っていることなのだろう。

「あの・・・」

 恐る恐る声をかけたのは、セリリ。

「これ・・・マズイんじゃないんですか?」

 自分の言いたかったことをそのまま代弁してくれたセリリに視線を移し、アルルは 大きく何度も頷いている。

「だって・・・新聞に広告掲載するのって、お金がかかるんですよね?」

 当然セリリの発言は、アルルの期待していたものとは異なっていたわけで、アルルはそのまま 前のめりに倒れこむ。

「大丈夫です。これ・・・読者の声を紹介するコーナーですから、多分無料のはずです」
「・・・なぁんだ。それなら安心ですねっ☆」

 チコの言葉に、セリリは顔を輝かせる。
 ・・・が、当然アルルは、立ち上がりかけた姿勢のまま、更につんのめった。

「ちょっとちょっとぉ! そーゆー問題じゃないってば」

 今度こそ何とか立ち上がって、アルルはようやくそう言った。

「だいたい、いくら掲載にお金がかからなくたって、新聞を取るのには お金がかかるんだよっ! 相手が新聞読んでなかったら、全く意味がないじゃないかっ!!」

 論点が正しいかどうかは別として、ビンボーで新聞を取っていないアルルにとっては 切実かつ正論な主張であろう。

「大丈夫です。この新聞は企業で発行しているものじゃないみたいですから」
「ビンボーなおうちにも平等に無料で配布されるみたいです〜」

 一瞬アルルは呆気にとられたものの・・・

「なぁんだ。じゃ、大丈夫だね☆」

 ・・・と、笑顔。

 言われてみると確かに、新聞というよりは地域の情報誌のような内容の発行物が 時々郵便受けの中に入っているのを見かけことがあるような気もする。
 なんとも物好きなモノを作る人もいるものだ・・・と思っただけで、 中身に目を通すようなことはほとんどなかったわけであるが・・・

「でもさ・・・実のところ、ちょっとだけ問題があるんだよねー」

 楽しげに談笑しあうアルル達3人に水を挿すような一言を投げかけたのは、 意外にもドラコ。

「実はさ、これ・・・『この神殿にて待つ』って書き忘れちゃったんだ」

 お茶目な仕草付でそう言ってのけたドラコ以外の、全員の時間が止まった。

「ドラコさんっ! そーゆーことはすぐに気が付いてくださいっ!!」
「ひどいです〜 騙したんですねっ」
「もうっ! 何の為にこんなとこまで来たのさっ!!」

 皆が同時にそう抗議の声をあげたその時である。

「そこにいるのは誰ですの?」

 不意に、別の声があたりに響く。

「あ・・・まさか、本当に来ちゃったんじゃ・・・」
「まっさか〜」

 月明かりで辺りの様子がかろうじてわかる程度の視界である。
 声のする方向はわかっても、その主の姿を認識するには至らない。 ・・・が、この場に他の誰かがいるのは事実。

(本当に来たんだ・・・)

 互いに顔を見合わせると、まるでそれが合図であったかのように、 一斉に各々の宝玉を胸へとあてる。
 自らの力の高まりを感じるとともに、身に纏う衣服もわずかに形状を変化させ、 光に包まれながら彼女達は同時に変身を終えた。

「・・・・・・!!」

 変身の際に放った眩い光に気がついたのか、それとも各々の溢れんばかりの力の高まりを 察したのか、姿の見えぬその謎の人物はわずかに怯んだかのように息を飲んだようだった。

 ・・・しかし次の瞬間、4人は逆に息を飲む。

「 ――――― !!」

 闇の中で、小さく何かが輝いた。
 そして、その輝きは次第に明るさを増し、恐らくはその場に立つ人物を完全に包み込む。

「もしかしたら・・・とは思っていましたけれど、お仲間だったとは驚きですわ」

 そう言いながら、光の中から現れたのは・・・

「ウィッチ!?」

 彼女達の言葉の通り、ゆっくりと歩み寄ってきたその少女の正体は金色の髪をなびかせた 小さな魔女、ウィッチその人であった。

 彼女も例に漏れず、普段身に纏うものとはわずかに形状の異なる衣服に、胸にはブローチ化している と思われる、暖かな星の煌きを秘めた金色に輝く宝玉・・・
 明らかに、アルル達の持つ宝玉と同種の物であろう。

「ウィッチも・・・この神殿で、宝玉を見つけたの?」
「ええ、その通りですわ。せっかくですので、この石に宿っているパワーの源を調べるために 人気のないところを選んでいろいろと実験をしたりしていたのですけれど・・・」

 アルルは、早くも真相に気がついた。
 このウィッチが、すすんで人助けなどするはずもなく、当然アルル達の偽者を 気取るはずもない。

(多分・・・その、実験の最中に、偶然に悪い魔物とかを吹っ飛ばした・・・とか、 そんな感じなんじゃないかな・・・)

 恐らく、彼女が今夜ここに現れたこと自体も何らかの偶然なのであろう。
 いや・・・もしかすると、宝玉同士が引き合わせてくれた・・・という、 なんとも幻想的な説を打ち立てることもできそうではあるが・・・

 当たらずとも遠からずであろうその考えをアルルが口に出そうとしたその時である。

「・・・ってことは、ウィッチ!! あんたが偽者ね!」

 自信に溢れるドラコの台詞。
 足を肩幅に広げ、左手を腰にあて、オーバーアクションでウィッチを指さす彼女の暴走は、 もはや誰にも止めることはできない。

「な、一体何のことですのっ!!」
「問答無用っ!! あたしの新聞記事読んでここに来たくせにっ!」
「だから、何のことですのよっ!!」
「とにかく、勝負よ勝負っ!!」
「なんだかよくわかりませんけれど、売られた喧嘩なら受けて立ちますわっ!」

 そんな2人のやり取りを見ながら、アルルは大きく溜息をついて、冷めた口調で呟いた。

「・・・帰ろ」



 一方、その頃のサタン様は・・・

「・・・近頃、時々記憶が曖昧になることが多かったが、また今日もか・・・一体私は どうしたというのだろう」

 サタン様は大きく溜息をついた。

「そのせいで最近は、私監修・私発行のマスクド新聞の発行ペースが落ちてきている。 元々は我が妃に読んでもらうために作り始めた新聞だからな。頑張らなくては・・・」

 言いながらサタン様は、最新号の執筆に取りかかった。


 ――――― が、アルル当人がこの新聞を読んだことはなく、しかも 店で使った古い油を拭き取るために愛用していた・・・ということは、サタン様には 当然知る由もない。





『おなかがぐ〜』 第十一話に続く・・・

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あとがき・・・


 えーっと、ウィッチもお仲間になった・・・ってとこで、別館掲載分は終了です。
 ドラコが仲間になった辺りから、更新ペースがかなり落ちていたこの小説、本館にやってきた・・・ ということは、更にペースが落ちること間違いないでしょう(爆)

 まあ・・・続きは、気長にお楽しみください☆





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