『おなかがぐ〜』第七話 『セッカンしちゃうぞっ☆』いつもと同じく、とりあえず天気だけは良い魔導世界・・・ とある街外れの小さなカレーショップのドアベルが、新たな来客を告げる。 「ああ・・・シェゾさん〜 よかったぁぁぁぁ」 突然客の顔を見るなり泣き出してしまったのはタライ・・・ではなくセリリ。 臆病で引っ込み思案な鱗魚人の少女である。 「・・・なんだ、お前。・・・アルルはいないのか?」 「他の方だったら、どうしようかと思ってたんですぅ〜」 シェゾの言葉からもわかる通り、店の主人である筈のアルルの姿はどこにもない。 セリリの他には・・・ただ、カウンターの隅でカーバンクルがひたすら踊っていた・・・ 「アルルさんにお店を任されていたんですけど、知らない人が来たら、わたし、 どうしたらいいか。・・・それに・・・」 セリリの目線が厨房に向く。 そう、ビンボーなアルルの店にはガスも電気も通っていない。 カレーを作る時はいつも炎の魔法を使って作っていたわけで・・・ (つまりは、もし客が来たら俺に作れ・・・と言いたいのだろうか・・・) ・・・という考えを、シェゾは口にできなかった。 (こんな誰の助けも来ないようなところで、これ以上泣き出されでもしたら 敵わんからな・・・) 「・・・まあいい。・・・で、アルルはどこへ行ったんだ?」 「はい・・・実は、さっきドラコさんが来て・・・」 涙声のままのセリリがシェゾに語ったところをわかりやすく書き直すと、 こういうことであった。 「あ、いたいた、アルルっ・・・美少女コンテストよっ!!」 ドアベルの音よりも早く、そう言い放って来店したのはドラコ。半竜の自称 美少女格闘ギャル(笑)である。 「は? ・・・なにそれ?」 店内にはアルルの他にセリリがいたが、ドラコはそれには構わずに、 アルルに向かって話を続ける。 「ちょっと遠くの街なんだけどね、各地から参加者を募集してるって。送迎も してくれるらしいから、すぐ行こう!」 「・・・ち、ちょっと待ってよっ! どうしてそうゆーことに・・・」 「だって、あたしが出れば、優勝は間違いないけどさー、あんたに後々 恨まれたくないし、『美少女コンテスト仲間』のよしみってヤツよ」 『美少女コンテスト仲間』という謎の言葉へのツッコミをする間もなく、 ドラコはアルルの腕を掴んで今にも外へ行かんばかりの勢いである。 「だって、お店が・・・」 「どうせ誰もお客なんて来ないでしょ」 「あの・・・わたしは・・・?」 アルルの手を離さぬまま、ドラコはセリリの方に視線を向ける。 「悪いんだけどさー、これはあたしとアルルの問題だから」 「でも、わたしとアルルさんはお友達で・・・」 別にセリリは美少女コンテストに出たかったわけでもなんでもないのだが、 アルルを連れて行かれることに抵抗を覚えたのだろう。 「お邪魔はしません。だから私も連れて行ってください」 セリリも珍しく強気にこう申し出る。 「無理。・・・だって、送迎って、バスが来るんだよねー。・・・あんたのそのタライがいくら 電動で動くっていっても、どう見たってバスのドアより幅が広いもん。諦めなよ」 そして、そのまま2人は(一人は無理矢理連れ去られる形で)店を出て行くこととなった。 アルルの『多分シェゾが来ると思うから、店番は任せるね』・・・の 一言を残して・・・ 「うわー、このバス早いんだねー」 目的地に向かう車中のアルルは思わず感嘆の言葉を述べる。 「なんでも、魔法の力で動いているバスなんだって。会場は普通に行こうと したら何日もかかっちゃうところにあるらしいからさ」 「へー、そうなんだー。すごいねー」 「・・・って、アルル・・・あんた、魔導師やってるくせに、なんで そんなことにも気付かないわけ・・・?」 「だって、ボク・・・バスに乗るの初めてだし」 そうこうしているうちに、バスは目的地に到着した。 アルル達をはじめ、何人もの少女達がそのバスを降りる。 ここはこの街で一番大きなホールを持つ建物で、今回のような催し物は もちろん、演劇やコンサートなども開かれるところらしい。 「これで、参加者は全員だな。第一陣のバスの参加者は既に控え室に待機して いるから、そこで待つように」 運転手兼係員らしき男の指示に従って、参加者達は控え室に向かって行く。 が・・・ 「ねぇ、アルル。ちょっとだけ会場の方を見てこようか?」 ドラコのこの一言にアルルも賛意を示した。 遺跡やダンジョンとは全く別の、近代的な建物の探索というのも興味惹かれるものである。 ――――― が・・・ 「迷ったぁぁぁぁぁ!」 「ひ、控え室はどこぉ?」 館内放送等がないことから考えて、まだコンテストの方は始まっては いないのであろうが、あまり望ましいシチュエーションであるとは言いがたい。 「あ、ここもちがう・・・」 幾つめかのドアを開いて、すぐにアルルはそれを閉じようとする。 「アルル、ちょっと待って。・・・これって、賞品じゃない?」 ドラコの言葉にアルルは手を止めた。 「コンテストの賞品がここにあるってことは、会場になるホールや控え室が 近いってことでしょ?」 そう言いながら、ドラコは室内に入ってしまった。 確かに彼女の言うことには一理ある。 本当に賞品なのかどうかは定かではないが、確かに室内には賞状やメダルのようなものから、 優勝者へ贈られるような冠のようなものまで様々なものが保管されている。 「じゃあ、早く控え室探そうよ。こんなとこにいたら怒られるって」 「そう? あたしはこれなんかがいいんだけどな☆」 アルルの言葉を聞き流して、ドラコは勝手に品定めをはじめていた。 と、その時である。 「火事だぁぁぁ!!!」 廊下から、誰かの叫び声が聞こえた。 「ど、ドラコっ! 今の聞いた? 火事だってっ!」 急な展開にアルルは、驚きの表情を隠せなかったものの、 それでも一応冷静に、ドラコに逃げるよう促した。 ・・・ところが、ドラコの返事は意外すぎる・・・いや、非常に わかりやすいものだった・・・ 「きっと、審査員の差し金だねっ! いかに美しく華麗に火消しができるかを 審査しようとしているに違いないっ!!」 そう言ったかと思うと、ドラコはアルルの制止を振り切って、廊下へと飛び出した。 「あっ、ドラコ! 待って!!」 続いてアルルもその後を追う。 ドラコに伝えておかなくてはならないことがあるのだ。 僅かに煙が流れ込んでいるため、火の元の方向だけははっきりしていた。 「あ、アルル!」 意外にもすぐにドラコに追いつくことができた訳は、廊下の突き当たりの 大きな扉のせいであった。 「この向こうから煙が来るんだけど、押しても引いても開かないんだ」 「わかった、ボクが魔法で開けてみるから、ドラコは下がってて」 言うなりアルルは、大きく息を吸って、慎重に構えを取る。 「ファ・・・」 すかさずドラコの蹴りが入った。 「いったぁ〜い。なにすんのさ」 「何すんのさ・・・は、こっちの台詞。あんた今、ファイヤー使おうとしたでしょ」 そう、扉の向こうは火事なのである。 「もういい、あたしが格闘美少女の名にかけて、ここをぶち破って見せるから」 アルルを後ろに押しのけ、そう言うなりドラコは気合もろとも扉に拳を叩きつける。 「・・・あ、れ?」 扉はほんの少し歪んだだけで、ほとんどそのままの状態であった。 これだけ強固な扉なら、アルルが魔法を使ったとしても無駄であったかもしれない。 だが、その拍子にドラコの懐から何か小さなものがこぼれ落ち、 床をすべるようにしてアルルの足元まで転がり込んできた。 「これって・・・」 「あ、さっきの賞品・・・持ってきちゃった」 スキュラじゃあるまいし・・・という台詞を辛うじて飲み込んだアルルは、 その『賞品』の小さな宝玉を拾い上げた。 炎のような力強い輝きを感じさせるその宝玉に、 アルルはどこか見覚えがあるように感じた。 「ドラコっ、これ・・・胸に当ててみてっ! こんな風にっ!」 傍から見ると、意味不明の行動であっただろうが、ドラコは何の疑いも せずに、アルルからそれを受け取ると、彼女のするように胸元に当ててみる。 「こ・・・これって?」 以前セリリがそうだったように、ドラコも宝玉の力を借りて変身を遂げた。 衣装も僅かに変化し、体中に力が漲ってくるのがわかる。 「ボクも、セリリもこれと同じような宝玉で変身できるんだ」 ドラコと同時に変身していたアルルがそう言って扉に視線を移す。 「これなら扉を開けられるかもしれない」 「よーし、ドラコちゃんの華麗な火消しテクニックを見せてあげるよっ!」 アルルの言葉にドラコは頷きながらそう言って、今度は一撃でその扉を蹴破った。 ・・・が。 「火・・・消えてたみたいだね」 他にも言うべき言葉があったのだが、アルルはとりあえず、結論だけを口に出してみた。 「せっかく腕の見せ所だったのにぃ〜〜〜っ! 美少女コンテスト優勝の 栄冠がぁ〜〜〜っ!!」 本気で悔しがっているドラコの肩をアルルはそっと叩いた。 「ドラコぉ、多分ね、今の火事とコンテストとは関係ないと思うよ。・・・ それとね、さっきから言おう言おうと思ってたことなんだけど・・・」 「・・・?」 首をかしげたままドラコは振り向いた。 「あのさ、今どき、『火消し』って表現は『美少女』っぽくないんじゃないかと思うよ」 アルルの一言はドラコにトドメをさした・・・らしい。 「あーら、お二人さん。こんなところでなーに遊んでるの?」 控え室に戻ったアルル達を待ち受けていたのはルルーの一言だった。 火事のせいでコンテストが中止になったという連絡をうけて、ドラコは もちろんアルルにとっても拍子抜けな面持ちのところにかけられた声であった。 ちなみにブローチとして胸に当てていた宝玉は、その後すぐに取り外している。 「ルルー? そっちこそどうしてここに?」 「アタクシはこのコンテストのスポンサーの一人なのよ・・・っていっても、 今日ここに来たのは代理としてで、予定外のことだったわけだけど」 ここまで言いかけて、ルルーは得意げな表情でこう続けた。 「でも、アタクシがいなかったらこの会場、大変なことになっていたハズよ。 風神脚で火が周りに引火するのを食い止めてから、外に落ちていた ドラム缶に水をたっぷり汲んできて消火成功。・・・ああ、サタン様にルルーの 魅力的な活躍を見ていただきたかったわぁ」 外にドラム缶が落ちているかどうかや、それを担いで消火するルルーの姿に 魅力が感じられるかどうかは別問題として・・・やっぱり結局今回も、 活躍したのはルルー一人であったらしい。 一方、その頃のサタン様は・・・ 「一体なぜに、私はこんなところにいるのだろうか・・・」 いつもと同じく(?)ほんの僅かな時間の記憶が定かではないものの、 さすがに人並みはずれた神経の図太さを持ち合わせているだけある。 サタン様は、多少動揺気味に辺りを見回していたものの、すぐに何事も なかったかのように、近くに止めてあった無人のバスへと乗り込んだ。 「ふむ・・・運転手もいないみたいだな・・・」 コンテストの係員も兼ねていた運転手は先刻のボヤ騒ぎの後始末のために 出払っているのだろう。 「む。誰かこっちに向かってくるぞ」 見ると、会場の方から十数人の美少女達がバスに向かってやってくる。 コンテストが中止になって、些か不機嫌なのであろう。少女達の顔にほとんど 笑顔は見られない。 「運転手さんっ!! 早くバス出してよ!」 少女達はバスに乗り込みながら口々に不機嫌な言葉を投げかける。 「いや・・・私は・・・」 そう、どうやら少女達はサタン様を運転手だと思い込んでいるようであった。 慌てて否定しようとしたその時である。 「あ、運転手さんっ!!」 背後から聞こえたのは、まさしくアルルの声。 (なんと、我が妃もこのバスに乗るというのか・・・それならば・・・) 「運転手は私だ。さあ、早く乗るがいい!」 力いっぱいカッチョいいポーズをとって、サタン様は振り向いた。 「あのね、ボク達、ルルーがじいやさんの車で送ってくれるって言うから、 帰りは乗らないねっ。じゃあねー☆」 なんとアルルはサタン様の姿も見ずに声だけかけると、 そのまま走り去っていってしまったのである。 「あ、アルル・・・?」 カッチョいい(と本人が思い込んでいる)ポーズのまま、サタン様は凍りつく。 「ちょっとぉ! 早くしてよっ!!」 追い討ちをかけるかのように、滅茶苦茶不機嫌そうな少女の声。 「いや、私は運転手では・・・」 と、車中に視線を戻し、もう一度否定しようとするサタン様に、更なる非難の声があがる。 「何言ってんのよ!! さっき自分が運転手だって言ったでしょ!!」 「早くしなさいよねー!!」 はっきり言って、少女達は不機嫌を通り越して殺気立っている。 サタン様は今までにないくらい困り果てた。・・・というか、焦っていた 実を言うと、サタン様・・・大型二種の免許はもちろん、普通車どころか 原付自転車の免許も持っていない・・・いや、正確には、教習所に150年程 通ってみたものの、免許を取ることができなかった、という悲しい過去を 持ち合わせていたのであった・・・(笑) あとがき・・・ ・・・わかる方にはわかるネタ・・・ドラコ変身です! さあて、次は・・・といきたいところですが、元ネタに習って(?)次回は閑話です。 メニューページへ戻る 全ジャンル小説図書館へ戻る 『魔導物語・ぷよぷよ』魔導・ぷよ小説へ戻る |