『おなかがぐ〜』第六話 『反省してください☆』「今日も一日いい天気☆ カーくん、お買い物に行こっか」 相変わらずヒマなカレーショップ。 アルルの言う通り、外は快晴、いわゆるお洗濯日和・・・ ランチタイムの時間も過ぎて、夕方まで、まだ時間はたっぷりある。 「本当は、買出しに出ている間に、お客さんが来たりしたら、 もったいない・・・じゃなくって、気の毒なんだけど、仕方ないよね」 「ぐっ☆」 アルルはカーバンクルの一言を強引に『同意』とみなすことにして、 財布と鍵を持って外に出る。 いつも通りに、入り口のプレートを『準備中』に変え、鍵をかけて振り向いた。 「・・・あ、れ・・・? セリリじゃない?」 「あ、アルルさん。こんにちは」 ちょうど店の前を通りがかったらしいセリリは、以前ウィッチに作って もらった(失敗作)という電動のタライに乗ったまま会釈した。 「・・・このタライ直してもらったの?」 「ええ」 アルルはセリリの近くまで歩を進めてタライを覗き込んだ。 「大丈夫かなぁ・・・使わない方がいいんじゃない?」 元来、鱗魚人は、いわゆる人魚の高等種で、陸上でも普通に生活できるものらしい。 人間と同じく、生まれながらにしてわずかな魔導力を持ち合わせており、 その力を用いることによって、極低空ではあるが、浮遊移動ができるはずなのである。 とはいえ、まだ能力の未発達なセリリは、自分の力だけでは長く浮遊する ことはもちろん、力加減をセーブすることも難しいわけで、そのことをアルルも知っていた。 「あ・・・」 セリリの浮遊の未熟さを知っているくせに、このような言い方は、著しくまずかった。 ・・・が、当のセリリは、いつもの被害妄想癖を全く出さず、微笑を 微塵も崩さずにいた。 「ええ、だから今、特訓中なんです」 「特訓・・・?」 「わたし、大きな魔力や精霊さんの力の影響のあるところでは、楽に浮遊する ことができるんですけど、それを上手く利用した特訓なんです」 「ふうん、良くわかんないけど、どこでやってるの?」 別段興味があったわけでもないが、それなりに会話を弾ませておかないと、後が怖い・・・ 「この先の神殿跡に先生が・・・」 「・・・神殿跡・・・って、こないだの?」 アルルがそう問いかけた途端、セリリは急に両手で口元をおさえた。 「ごめんなさいっ! これ以上はお話できないんですっ!!」 そう言うかいわずかの内に、セリリはタライのギアをローに入れたかと思うと、あっという間に ハイトップまで切り替えて、その場を立ち去ってしまった。 「・・・なんだったんだろうね? カーくん」 「ぐ?」 (・・・・・・) 「・・・とは言いつつ、やっぱり気になっちゃうんだよね」 あえて気にしないよう努めてはいたものの、町で買い物をしている途上でも、 『毎日のように神殿跡に通って、魔法を習っている者がいる』・・・などの 噂を聞いてしまっては、気にするな・・・という方が無理な相談であろう。 時は、夕刻近く・・・ 店のことも気になるが、偶然やって来た臨時の店番に全てを押し付け・・・ いや、全てを任せてきているから、少しは安心である。 (接客態度はともかく、ウデは一流っぽいしね) あえて、誰のことかは言わないが、魔法や剣技のウデを『一流』と 称されるならまだしも、本人としては至って不本意な形容であろう。 神殿跡には大勢の人々や、比較的人間に友好的な魔物達が集まっているようだった。 地下のダンジョンに眠っていたアイテム等は、既に粗方発見されてしまった 後なので、今更この地を探索に来る者などいないはずである。 見たところ、集まっている人々のそれぞれが何かに夢中になっているようで、アルルの侵入には、 誰一人として気付く様子もない。 (あ、セリリ・・・) 広間の隅の方で、浮遊の練習をしている彼女も例外ではないようだ。 (・・・これって、なんだかおかしいよ・・・) まず第一に、各々の目つきが尋常でない。まるで、操り人形のような無気力・・・いや、 無機質な瞳。 それに・・・ (この、嫌な感じの空気・・・いくら鈍感なボクでも・・・) 「・・・・・・!」 ポケットの中で、何かが暖かな光を放っている。 「これって・・・」 光の源をそっと取り出してみると、それはパールピンクに輝く宝玉・・・ 「・・・すっかり忘れていたよ。これを使えば・・・!!」 アルルは、以前したのと同じように、宝玉をブローチのように胸元に当ててみた。 それと同時に、自らの魔導力が石の力によって、高まっていくことが 手にとるようにわかる。そして、魔導スーツも再び姿を変える・・・ 「・・・で、どうしよう・・・かな」 別に目前に悪者がいるわけでもなし、変身したからといって、これといって することなど何もない・・・ 「あ、アルルさんっ?!」 不意に背後から声がかかる。 「セリリ・・・良かった、さっきから様子が変だったから、どうしようかと思ったよ」 「多分、アルルさんと、これのおかげだと思います」 そう言って、セリリがアルルの方に差し出したのは、清流のような輝きを 蓄えている青い宝玉・・・ 「これ・・・って・・・?」 「今日、神殿の外で拾ったんです。多分、シェゾさんのように地下の 探索に来た方が落としていったものだと思います」 セリリが言うことには・・・ ここでの特訓は、確かに有効的で、力の未熟なものにとっては魅力的なものであったのだが、 時折記憶が曖昧になる・・・などの副作用も大きかったらしい。 「この石を持っていたら、いつもと違って、意識が何かに守られているような感じがして・・・ だからアルルさんから見たら、おかしな様子だったかもしれませんが、わたし、意識ははっきり していたんです。・・・アルルさんが放った光を浴びたら、身体も自由になりましたし」 「・・・セリリ、その石をボクみたいに胸に当ててみて。もしかしたら・・・」 大きさといい、輝きの質といい、そして、その中に秘められた力といい、 アルルの宝玉と同じ性質のものであると考えられる。 ・・・と、いうことは・・・ 「ああっ! アルルさんっ! 見てくださいっ!! ・・・わたし、浮いてます〜」 青い宝玉の力で、光と共に変身したセリリの身体は、一人前の鱗魚人と 同じように、何の苦も感じられないような浮遊状態にあった。 アルルの時と同じく、魔導力が高まっているのだろう。 「しかも、このお洋服・・・カワイイです〜 上着はアルルさんとおそろいみたい☆」 無邪気にはしゃぐセリリを尻目に、アルルは辺りを見回した。 セリリ以外の他の者達の様子は、全く変わっていないようであった。 「ねぇ、セリリ・・・確か、先生がいる・・・って言ってたよね。どこにいるの?」 「・・・地下です。時々個人指導してくださるので・・・」 そう言いながら、セリリが地下への階段を指し示したその時である。 「待って、誰かが上ってくる・・・隠れよう」 神殿内なので、音は良く響く。 ・・・確かに、地下から足音が聞こえてくる。 アルルの小声にセリリは無言で頷いて、素早く石柱の陰に身を隠した。 「全く、失礼しちゃうわ・・・何が『ゴリラでも魔法を使うことができる ようになる』・・・よ」 (・・・ル、ルルー・・・!?) 地下からの足音の主は、ルルー。 よく考えたら、このようなオイシイ企画を、あの彼女が見逃すはずはあるまい。 彼女は立腹状態のまま、脇目もふらずに神殿の外へと出て行った。 「・・・なんだか、嫌な予感がするんだけど・・・」 「・・・・・・?」 「・・・その、先生の様子、見に行ってみようか・・・」 自由に浮遊できるようになったセリリを促して、アルルは地下へと足を踏み入れる。 セリリの案内がなくても、階段を降りてすぐのところに 扉が半開きになっている小部屋があるのを見つけることができた。 「・・・入ってみる?」 扉の前まで来てから、アルルが同意を求めた。 「でも、先生にしかられてしまうかも・・・」 「大丈夫・・・だと思うよ、多分」 そう言うなり、アルルは扉を勢いよく開け放った。 「・・・・・・」 「やっぱり・・・ね・・・」 その小部屋の中で二人が見たものは、顔の原型すらとどめていないほど殴打された(と 思われる)『先生』らしき人物が、ばたんきゅ〜している姿のみ・・・であった。 ――――― 後の魔導新聞によると、自首により逮捕された授業料詐欺容疑の、催眠術師兼 『偽魔導教師』は、『そこはかとなく人間(特に『女』・・・さらに特に『格闘系』)が怖く なった』と、自首の理由を明らかにしたらしい・・・ 一方、その頃のサタン様は・・・ サタン様は、別荘自室のクローゼット(衣裳部屋)を覗いて首をかしげていた。 「・・・なぜだ。・・・なぜ一度も手を通していないハズの洋服に、汚れが ついているのだ・・・」 サタン様には、『ファッション的センスと、それに対する気遣い』の 絶対的、かつ揺るぎもないが根拠もない過大な自信があった。 洋服に汚れがついていることも気付かずに、クローゼットにしまうことなど考えられないこと であるし、それ以前に、本当にその洋服に袖を通した記憶は全くないのである。 「そういえば、先日から二度ほど、記憶が途切れたこともあるし・・・ もしかして『年』・・・いや、『病気』なのかも・・・」 独り言を呟きながらサタン様は、問題の汚れのついた洋服を 取り出してから、机上に束になっていたチラシに手を伸ばす。 「・・・クリーニング店の半額セール期間はいつまでだったかな? ・・・ なっ!? 『タキシード等礼服は対象外』だとぉ!? ・・・ゆ、許さんっ!!」 今日のサタン様は、とっても御機嫌斜めだった・・・らしい。 あとがき・・・ ・・・というわけで、セリリが仲間になりました☆ 補足・・・ですが、今回の『敵』は名もないただのエキストラです。 今回に限らず、前回の『強盗っぽい目つきをした魔物』も。 最初は、誰かメジャーな魔導キャラを使おうかな・・・とも思ったのですが、あまり話を長く したくなかったので、さらっと終わらせてしまいました。 さあ・・・次は・・・? メニューページへ戻る 全ジャンル小説図書館へ戻る 『魔導物語・ぷよぷよ』魔導・ぷよ小説へ戻る |