『おなかがぐ〜』






第五話 『おしおきだからね☆』



 いつもと同じ昼下がり。
 相変わらず、アルルのカレーショップには閑古鳥・・・

 ・・・と、思いきや、今日は珍しく客の入りが・・・

「ちょっと、アルルっ! 聞いてるの?」

 こちらこそは相変わらずの強い口調・・・もちろん、声の主はルルーである。
 『客』・・・とはいっても、別にカレーを食べに来た『客』ではなく、単なる世間話(?)を しに来た『客』であって、店のオーナー的にはあまり喜ばしい『客』ではあるまい。

「ごめんねー。今忙しいから」

 厨房から洗い物の手を止めずに答えるアルルの声。

「忙しい・・・ですってぇ? さっきからだぁれもお客なんて来てないじゃないのよ」

 事実である。
 ・・・が、店の仕事には、客がいない時にこそしなくてはならないものが あるわけで・・・

(・・・なぁんて、ルルーに言ったって、聞く耳持たない だろうし・・・)

 大体、今日のルルーの用件自体が、アルルにとって、どうでも良いことばかりだった。

「サタン様がね・・・」
「今日、ミノったら・・・」
「新しいアクセサリーがほしいんだけど・・・」

 云々・・・

「じゃあさ、ちょっとだけ見てくればいいんじゃない? ボクと違ってルルーだったら、 どんなものでも似合うんだし、気に入ったのを買って、サタンに見せてくればいいよ」

 ・・・はっきり言って、『追い出し作戦』である。

「そうねぇ、こんなところであんたと喋ゃべくりあってたって、何にもならない し・・・ちょっと行ってこようかしら」
「・・・こんなところで悪かったね」

 アルルの言葉を無視したまま、ルルーが立ち上がったその時、店の入り口の ドアにかけてある小さなベルが、音を立てた。

「あら、お客さんじゃない」
「いらっしゃいま・・・」

 2人同時に声を発したものの、アルルはそのまま構えをとる。

「・・・いいかげんに、その構えはやめろ」

 声の主は・・・闇の魔導師、シェゾ・ウィグィィであった・・・

「だってさぁ、キミ、前科ありまくるし・・・って、今日は何の用? 出前なら、 昨日で約束の期間は終わったはずだよ」
「ダンジョンの探索は、ひとまず終わった。・・・もう出前の必要はない」
『ぐ〜』

 シェゾの言葉が終わると同時に、カーバンクルの鳴き声・・・
 ・・・いや、カーバンクルは、カウンターの横で昼寝をしていて、起きる気配は全くない。

「・・・つまり、お腹が空いてるんでしょ? そうならそうと、早く言ってくれればいいのに」
「いや・・・その・・・」
「みつけたアイテムとか、もう換金してきたの? お金持ちな時くらい、 いいもの食べてってよ☆」

 上機嫌でアルルは仕度に取りかかる。

「・・・いや・・・金は・・・ない」

 アルルの手が止まった。

「何軒かに当たったが、ほとんど価値のないものだとぬかしやがる。 おかげで、収穫は魔導書が数冊と、有り余るガラクタだけだ」

 よほど腹に据えかねていたのだろう。
 彼は、ひどく不機嫌そうに椅子に腰をかける。

「魔導書を解読したら、それを換金するから・・・」
「ツケで食べさせろ・・・って? しょうがないなぁ・・・いいよ。かわいそうな闇の魔導師さんに、 ボクからのプレゼント。・・・なぁんて、実はねっ、今、ルーの味をちょっと研究中なんだ。 毒見してってくれる?」

 そう言いながらアルルは、鍋に手をかけると、素早く皿によそった。

「・・・毒見・・・って、一体何を入れたわけ?」

 怪訝そうにルルーが口をはさむ。

「んー、激辛草と、辛さを抑えるためにサッカリンを一袋・・・それだけじゃまだ辛いから、 ウィッチのところで貰ってきた、味覚を麻痺させるっていう薬草を・・・」

 シェゾの手が・・・止まった・・・

「いやだなぁ・・・冗談だって」
「冗談になってないぞ・・・特に最後のっ!」

 文句を言いながらも、結局平らげる。

「まぁ・・・美味かったんじゃないのか? 『毒見』とはいえ、 タダで食わしてもらうのもなんだから・・・これを、やる」

 そう言って、シェゾがアルルに向かって放り投げたのは、ピンクパールに輝く宝玉。
 ちょうどブローチにでもすれば、見栄えのするような大きさで、半透明の 微妙な色合いが、なんとなく美しく思える。

「わずかに・・・だが、確かに魔力を感じた。しかし、市場では二足三文にもならんものらしい ・・・って、どうしてお前が持っているんだぁぁぁっ!」

 シェゾの叫びからもわかる通り、宝玉を胸の辺りに当てているのはルルー。
 別の意味でも『手が早い』のかもしれない。

「あら・・・何か文句ある? だって、ちょうどアタクシの好みの色なのよ ねぇ・・・大きさもちょうどいいし、安物だって、これだけ綺麗なら 手をかけて加工すれば、それなりのものになるはずよ」
「それは、カレーの礼にアルルにやったもの・・・す、好きにしろぉ!!」

 突然シェゾは踵を返すと、そのまま店を飛び出していった。

「・・・な、なんだったんだろお・・・」
「さあね。・・・さぁて、この石を・・・って、なあに、これ・・・? 全然 輝いてないじゃない」

 ルルーの言葉にアルルもその石を覗き込む。
 確かに彼女の言う通り、その宝玉に先刻までの輝きはない。 これなら、色のついたガラス玉の方が、幾分マシであろう。

「ヘンタイ魔導師に危うく騙されるところだったわっ! やっぱり、アタクシ は、高級なお店で、センスのいいアクセサリーを買わなくては・・・っ!」

 そう言い残すと、ルルーはカウンターに宝玉を無造作に置いて、店を飛び出していった。

「・・・まあ、いいか。・・・でも、さっきはどうしてあんなに 綺麗だったんだろう。太陽の光でも反射してたのかなぁ・・・」

 アルルは、もう一度手にとって、それを光にかざしてみた。

「やっぱり・・・きれい・・・」

 石は、先刻シェゾから受け取った時よりも、より美しく輝いている。

「いいものもらっちゃった」

 そして、先ほどルルーがしていたように、宝玉をブローチのように、 胸の辺りに当ててみる。

「・・・え?」

 この位置では、窓からの光は届かない筈なのに、その宝玉はさらに強く輝いた。
 それだけではない。
 今まで、微塵も感じなかった魔導力が、石の中に漲っていくのが手に取るようにわかる。

(魔導力が、吸い取られている・・・?)

 石の中に漲る力は、紛れもなくアルル本人の魔導力であった。

「しまったぁぁぁっ!! 今日はヘンタイぢゃないと思って油断したぁっ!」

 ・・・余談ではあるが、この時のシェゾは盛大なるクシャミをしまくって いたとか・・・(笑)

「・・・え・・・? 何か・・・違う・・・」

 確かに、石の中には自らの魔導力を感じることができた。
 だが、アルル本人の魔導力は、減るどころか、むしろ今まで以上に 高まってきているかに思えた。

「これって・・・魔導力を高めるアイテムなんじゃ・・・」

 そう呟いて、もう一度胸に当てた宝玉に視線を移す。

「・・・う、うそぉっ!」

 宝玉は胸に当てたその位置のまま、本当にブローチになったかのように しっかりと服に張り付いていた。
 そして、その服は・・・というと、いつも身につけているはずの魔導スーツ とは、わずかに形が異なる見たこともないものに姿を変えていた。

(・・・な、なによっ! ちょっと! い、いやぁぁぁぁぁっ!!)

「・・・・・・! な、何・・・今の。・・・ルルーの声・・・?」

 確かに聞こえたのはルルーの声。

「助けに行かなきゃ!!」

 当然のことながら、ルルーはここにはいない。
 声は、直接アルルの中に響いてきたもののようだった。

(きっと、この石の力のおかげだよっ! 待ってて、ルルー!! 今、 ボクが助けに行くからっ!!)

 アルルは迷うことなく、商店街の中心部の、ある店の前までたどり着いていた。

「ここだねっ」

 何が起きたのかはわからないが、ルルーのピンチには違いない。
 アルルは、思い切って店の扉を開いた ―――――

「・・・・・・」

 そこには、店の主である、パララが恐怖のあまり無言で立ち 尽くしていた。・・・というか、パララは元々無言であった。

「ふー。なんなのよ。この店はっ!! 客に強盗を捕まえさせるなんて、 失礼しちゃうじゃないの。・・・これ、半額にしてくれる?」

 よく見ると、ルルーの足元には、強盗っぽい目つきをした魔物 達が何匹もばたんきゅ〜している。

(・・・そういえば、さっき聞こえたルルーの声・・・最後の 『いやぁぁぁぁぁっ』・・・っていうのは、悲鳴というより、気合の声 だったような気が・・・)

 アルルは、そっとブローチ化していた宝玉を外すと、何も見なかったふりをして、 その場をこっそりと立ち去ることにした。



 一方、その頃のサタン様は・・・

「私の名は、マスクド・・・って、あれ? ・・・なぜに私は このようなところにいるのだ・・・?」

 慌ててサタン様は、辺りを見回す。
 どうやら、場所は街の商店街の店の中のようである。
 階段の踊り場の窓に足をかけ、まるで、今しがたここから店内に侵入したかの ような格好である。・・・が、当然サタン様には、そんな記憶は全くなかった。

(・・・た、確かにさっきまで、私は別荘の自室で、 カーバンクルちゃんのことを想い耽っていたハズなのに・・・一体、どうなっているというのだ ・・・もしかしたら、店の者なら、何かわかるかもしれないな・・・)

 そう思ってサタン様は、階段を下りようと、視線を一階に向け、そのまま何も見なかったふりを して、その場をこっそりと立ち去ることにした。

 そこには、店の主であるパララに、『強盗退治代』として、商品を値引き させようと必死になっているルルーの姿があった・・・


 今日のサタン様には・・・出番はなかった。(あ、いつもか)





『おなかがぐ〜』 第六話に続く・・・

一つ前の話を読み直す





あとがき・・・


 ・・・アルル変身(爆)

 元ネタは・・・おわかりでしょうか?
 わかっている方が読むと、いっそう楽しめます。

 元々は、別館オープン後間もない時期に、他の方との掲示板上の雑談から始まった企画 なんですけどねー(笑)
 まあ、続きを楽しんでください☆





TOPへ戻る

メニューページへ戻る

全ジャンル小説図書館へ戻る

『魔導物語・ぷよぷよ』魔導・ぷよ小説へ戻る