『おなかがぐ〜』






第三話 『正しいカレーの作り方』



「はぁ・・・やっと着いたよ・・・」

 買い物袋を片手にアルルは、鍵を取り出して店の入り口を開ける。

 実を言うと、この第3話は、第2話のすぐ後の出来事である。
 ・・・正確には、アルルがドラコ達と一戦やらかした後・・・つい先刻まで、店の前でサタン様が 大騒ぎしていたということも、野次馬の立ち去った今となっては、アルルには知る由もない。

 せっかく買出しした材料の大半は、ドラコ達と無駄話している間に カーバンクルがたいらげてしまっており、新たに買いなおすだけの 予算のないアルルにとっては、足取りの重い帰り道であった。

「あれ・・・?」

 確かに鍵を開けたはずなのに、ノブを引くことができない。

(おっかしいなぁ・・・鍵かけてなかったのかな・・・ ううん。ちゃんとかけてったよね・・・ちゃんと覚えてるもん。・・・ あ、そうか、このドアは『引く』んじゃなくて『押す』んだった・・・って、 そんなバカなことあるわけもないし・・・ってことは・・・まさか・・・?)

 余計な詮索をしている場合ではない。
 アルルは、慌ててもう一度鍵を出し、今度こそそれを開けると、 後先考えずに、店の中に飛び込んだ。

「よお、ずいぶんと遅かったな・・・」

 なんとそこには、銀髪の闇の魔導師、シェゾ・ウィグィィの姿があった。

「ちょっとぉ、シェゾぉ! お店には鍵がかけてあったんだよっ! 一体どうやって入ったのっ!!」

 まさか、いつのまにかこっそりと合鍵を作っていたのでは・・・
 いや、いくらシェゾがヘンタイでも、そこまでは・・・ やらない・・・だろう・・・かな? ・・・多分・・・

 そんな考えを巡らせているアルルをよそに、カウンター席に腰掛けたまま、彼は口を開く。

「鍵ぃ〜?」

 暫し間を置いて、シェゾは立ち上がると、アルルの方へと歩を進める。

「ああ、あれか・・・確かに鍵はかかっていたが・・・」
「やいっ、シェゾっ! まさか裏口が開いていたから楽には入れた・・・とか 言うつもりじゃないよねっ! もし、 そうなら今のうちに謝っちゃった方がいいんじゃないの? ・・・ だって、この店・・・」

 そう、この店には『裏口』なんて贅沢な(?)ものはない。

「そんな必要あるものか・・・見ろよ」

 シェゾは親指を立てて、ちょうど彼らの立つ位置からちょうど真横にあたる 壁を指し示した。

「壁にこんな大穴が開いていれば、誰だって楽に入れるだろう?」

 確かに彼の言う通り、そこにはオープン初日にアルルがシェゾをジュゲムで ぶっ飛ばした際にできた傷跡が・・・
 これならシェゾでなくても、子供やノミであろうと楽に入ることができるであろう。

 ・・・しかし、いくら穴が開いていたからとはいえ、勝手に人の家に 入って良いなどという、都合の良い話などある筈もない。

「やいっ、シェゾぉっ! 勝手に人の家に入ったりして、 何の用だっていうのっ! このヘンタイっ!!」
「・・・用? そんなわかりきったことを聞くとは、愚問だな・・・アルル」

 そう、わかりきったこと・・・
 この後に彼が言う台詞なんて、『お前が、ほしい』以外に考えられるはずもない。

「・・・・・・ほしい」

(ほらね。ボクの思った通り。・・・どうせ壁には大穴が開いているんだから、 もう一度・・・)

 アルルは、すかさず、ジュゲムの構えを取る。

「・・・お前・・・何をやっているんだ?」
「へっ?」

 いつもと違って、冷めたような、それでいてあきれたようなシェゾの口調に 違和感を感じたのか、アルルはそのまま動きを止める。

「俺は、『大盛りカレーが欲しい』・・・と、言ったんだ」
「えええっ!?」

 アルルは驚きのあまり、しりもちをついてしまった。

「闇の魔導師とて、腹は減る・・・街まで食料を調達に出かけるのは 面倒だったからな・・・って、おいっ、聞いてるのか?」

 アルルはその場に座り込んだまま放心状態である。

「・・・いつまでそうしているつもりだ・・・俺に食わせるつもりはないとでも 言うのなら、他を当たるぞ」
「ち、ちょっと待ってよ、シェゾっ! あんまりびっくりしたもんだからさぁ ・・・い、今すぐ作るから」

 せっかくのお客さん・・・例えそれがシェゾであっても・・・を、 逃がすわけにはいかない。
 アルルは勢いよく立ち上がると、調理場へと向かった。
 仕込みは出かける前にしてあったから、とりあえず鍋を火にかける・・・

「ファイヤーっ」

「な、何をやっているんだ・・・お前は・・・」
「なに・・・って、カレーを温めてるんだよ。見てわかんないのっ!?」

 先刻ドラコとウィッチにからかわれたばかりであるから、アルルの口調も きつくなってしまう。

「・・・も、文句ある?」
「ある」
「・・・・・・」

 あまりにもはっきりと言われたため、アルルは反論のタイミングを失った。

「火力が強すぎる。それでは鍋が焦げ付いてしまうぞ」
「・・・は、はあ?」

 てっきり、調理にガスを使わない(正確には使えない)ことに対して、何か 言われるものだとばかり思っていたアルルは、思わず拍子の抜けた 間抜けな声を返してしまった。
 ・・・が、シェゾの方は、そんなことには構わずに、さらに続けて口を開く。

「強火で炒めるのは最初だけだ。その後は魔力を抑えてかけることだな・・・ ち、ちょっと待てっ! この野菜の切り方はなんだっ!!」

 調理場を覗き込んできたシェゾはそう言って、調理台を強く叩く。

「・・・なにって・・・野菜は、野菜だけど・・・」
「切り方がなっていないっ、火の通りの悪い野菜は少し小さめに切るっ! 大きさは そろえるんだ!! ・・・って、アルルっ! 今度は何をやっているんだっ!!!」

「・・・サラダ作ってるんだけど・・・それが、何?」

 シェゾの意外な言動に圧倒されたのか、アルルは恐る恐る答える。

「包丁の持ち方からしてなってないっ! 見ていろっ!」
 そう言うや否や、シェゾはアルルの手から包丁を取り上げると、 目にもとまらぬ速さで、キュウリを輪切りにしてしまった。

「・・・すご・・・い」

 アルルも素直な感想を漏らす。

「シェゾ・・・? あのさぁ、ドライカレーって、野菜をみじん切りに するでしょ? ボク、あれってちょっぴり苦手なんだけどなぁ・・・」

 キュウリに続いて、タマネギを薄くスライスしている彼の背後から、 アルルはそっと声をかけてみる。

「・・・なに? そんなこともできないで、 カレーショップを開いたというのか? 仕方ない、見ていろ」

 今までスライスしていたそのタマネギを手早くボールに取り、 もうひとつ別のタマネギを取り出したかと思うと、 シェゾは突然、それを宙に放り上げた。

「闇一閃! 切り裂けぇっ!!」

 闇の剣・・・ならぬ、アルルの店の安物の包丁からでも、この大技が 放てるのかどうかは別にして、とにかくその次の瞬間には、タマネギの みじん切りができあがっていた。

「シェゾ、すごーいっ☆ ねぇねぇっ、こっちもやってみてっ☆」

 正直なところ、アルルは自分の作るカレーには自信があった。これは決して アルル個人の主観ではない。客観的に見ても、アルルの作ったルーは絶品 とまではいかないまでも、かなりの美味といえるだろう。
 確かにアルルの性格の大雑把さから考えても、シェゾのこの見事なまでの 包丁捌きには、到底かなうはずもないのだか、みじん切りができないほど腕が 悪いわけでもない。

 アルルのこの言動には、理由があった・・・

「・・・ん?」

 あれからわずかな時間が過ぎていた。
 カレーショップの調理場だというのに、なぜか大根の千切りをしていた シェゾは、妙な気配を感じて急に手を止めた。
 店内に目をやると、なんとつい先刻まで閑古鳥が鳴きまくっていた筈の 店内がほぼ満席にまでなっている。

「なんだ・・・わざわざ食いに来てやらなくても、それなりに客は入っていたようだな ・・・って、ちょっと待てぃ・・・た、確か俺は『客』だったハズじゃ・・・」

 その時、シェゾは気が付いた。

 店内にいる客の多くが食しているのは(ルーこそアルルのものではあったが) 全てシェゾが作ったものであるばかりか、カレーを食べに来た筈の客達の視線が、 肝心のカレーではなく、調理場にいる、自分に注がれている・・・ということに・・・

 そして次の瞬間、我に返ったばかりのシェゾに、 とどめをさすような出来事が起こったのだった。

「はいはぁ〜いっ☆ 『闇の魔導師スーパーデラックス調理ショー』の会場は こっちらですよ〜っ☆ あの闇の魔導師、シェゾ・ウィグィィが繰り広げる、 豪華特別ショー! こんな面白珍しいモノ、もう二度と見れないよっ☆」
「ぐーーーーっ☆」

 それは、当然アルル(・・・と、カーバンクル)の声であった・・・



 一方、その頃のサタン様は・・・

 ここは、アルルの店から一番近いサタン様の別荘。

 つい先刻、まるで『見世物』扱いを受けたことが、相当のショックだったのか、サタン様は 自室に閉じこもったまま頭を抱えこんでいた・・・

「・・・ああ、新聞社に写真を撮られてしまった・・・明日の朝刊に 載ってしまっては、あの姿がアルルの目にも触れてしまうではないか・・・」

 実際のところ、ビンボーなアルルの店では、新聞なんて贅沢品(笑)を とっているはずがあるわけないのだが、そんなことはサタン様に知る由もない・・・

「なんという失態・・・新聞社が来ることがわかってさえいたら・・・ この、このおニューのタキシードを着て行ったのにぃーーーーーっ!!」


 ・・・サタン様の悩みは、大変重大なことだったようだが・・・どうやら、 悩むべきところの基準も、一般人と大きくかけ離れてしまっている ようであった・・・





『おなかがぐ〜』 第四話に続く・・・

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あとがき・・・


 前の後書きにも書きましたが・・・この『おなかがぐ〜』結構修正・加筆しています。
 単なる誤字脱字・・・ってのもあるのですが、これを書いた時期ってまだWEB小説を書き始めた ばかりの頃だったものだから、改行の基準とかがバラバラなんですよ〜
 他にも、まあいろいろと修正点が・・・(恥ずかしいから書かないけど)

 さて・・・この第三話から、同人誌収録外の話になりました。
 漫画から小説におこす・・・って作業も大変(あじの場合特に、コマの隅っこに吹き出し外の 台詞入れたりするクセがあるものですから・・・)でしたが、完全に白紙の状態で書く・・・って のもなかなか大変ですね〜
 小説に関しては、ギャグよりもストーリー性の強いシリアス物の方が書きやすいなぁ・・・なんて、 思ったりなんかして・・・





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