『おなかがぐ〜』






第二話 『カレーショップのひ・み・つ』



「おいっす☆」

 不意にかけられた声に、アルルは驚きつつも、とりあえず反射的に 『おいっす』と返事をした。

「あー、ウィッチだー。久しぶりー」

 挨拶を返してから、声の主に気が付いたのであろう。
 背後から声をかけたというのならまだわからないでもないが、 ウィッチの位置は、真正面ではないにしてもアルルの前方・・・今まで彼女が 目に入っていなかったはずはないのであるが・・・

「あら、珍しいこと・・・ずいぶんと元気がありませんわね・・・」

 そう・・・絵に描いたかのようなさわやかな朝だというのに、 アルルの声にいつもの元気は感じられなかった。

 ここは、アルルの店からちょっと離れた一本道。
 おそらくは買出しの帰りなのであろうアルルは、カーバンクルを連れて、スーパーの紙袋と 手提げのビニール袋を手にとぼとぼと歩いていたのであった。
 ちょうどそこにウイッチがやって来て、声をかけたのである。

 ウィッチはホウキの速度を落としてアルルの真横に来ると、彼女と同じ目線になるように 低空飛行をしながら『もいっちょ、おいっす』・・・などとからかってみる。
 ・・・が、アルルは、それには答えずに大きくため息をついた。

「そりゃあ、元気もなくなるよ・・・せっかく始めたお店なのにさぁー、 ヘンなの以外、まぁーーーったくお客さんが来ないんだもん」

 『ヘンなの』・・・とは一体何をさしているのか・・・ という疑問はとりあえず置いといて・・・
 事実、アルルの店がオープンしてからこの一週間、数人の野次馬的客が訪れたものの、ほとんど 売上にはつながっていないのが現状である。

「いっそのこと、お店の名前を変えてみたらー? 大体『おなかがぐ〜』 なんてセンスなくてよ。某同人作家の三流作品タイトルじゃあるまいし・・・」

(・・・・・・怒)

 ウィッチの言葉に怒りを覚えた、作者あじ・・・ではなくアルルは拳を 握り締めたまま、しばらくじっと彼女の言葉を聞いていたものの・・・

「今月も、家賃払うのが精一杯・・・」

 オープンして1週間の店に『今月も』・・・というのは おかしな表現ではあるが、それだけアルルが追い詰められている・・・という 考えもできるわけで、その点については多大に同情の余地があるのだが、もっと 気の毒だったのはウィッチの方で、先ほどまでは確かに存在しなかったハズの 大きなコブのできた頭を何度もさすっている・・・

「ねえねえっ」

 空から不意に舞い降りてきたのはドラコ。
 恐らく2人が楽しげに(?)話しているのを見かけて声をかけてきたのであろう。

「アルルのとこのお店って、ガスとか電気とかを料金滞納しちゃって、 全部止められてる・・・って聞いたんだけど、ホントー?」

 漫画で描くところなら、ちょうどドラコの台詞の入ったフキダシは、 まるで槍のような形になって、アルルの背後から胸を一突き・・・と、いったところであろうか。
 すかさず、三流ギャグ漫画のように、ホウキからズッコケ落ちるウィッチ。

「ちがうよっ!」

 一瞬間を置いた後、ちょっびり強気にアルルはそう言いきった。
 買い物袋を足元に置いて、反論の構えをとったアルルは、例え小規模であろうと、一軒の 店の主としての意地とプライドをかけて、ドラコの誤解を訂正した。

「最初っからガスも電気もひいてないんだもん♪ ビンボーだから。 ・・・だから『止められた』わけじゃないよっ」
「どーやってカレー作ってんのよーーーーっ!!!」

 いつものお嬢様言葉はどこへやら・・・ウィッチが激しく突っ込むのに 対して、今度はドラコの方がズッコケている。

「だからぁ、こーやって・・・」

 後にウィッチが語ったところによると、この時、『そこはかとなく嫌な予感がした』らしい。
 一方のドラコはというと、ズッコケた状態からまだ立ち直っていなかったが ために、『完全に不意をつかれた』・・・とのことであったが・・・

「ファイヤーーーーっ」

 突然両手を前方に伸ばしたかと思うと、アルルはそう叫んでいた。
 呪文と同時に燃え上がる二つの物体・・・
 これが魔法に耐性のあるウィッチと、炎に強いドラコであったから、 2人のお肌がとっても日焼け(火焼け)した程度で済んだものの、この至近距離からだと、一歩 間違えると致命傷にもなりかねない、危険な魔法であるから、良い子は絶対真似 しないでねっ☆ (するかっ!・・・というより、できるかっ!)

「冷蔵庫には、4時間おきにアイスストームかけてるんだっ。・・・だから、大丈夫だよ」

 ちなみに水道だけはひいているらしいが、アイスストームを何度も 喰らっても無事・・・という耐久性に優れた冷蔵庫のメーカーを ぜひとも知りたいところであるが、後ろの小麦色(黒焦げ?)な2人は、 そんなことは聞いてもいない。

「そんな訳で、けっこう大変なんだ・・・」

 再びため息をつくアルル。
 その背後から殺気が迫っていることには気付いていない。

 アルル、危うしっ!!

 ・・・と言いたいところであるが、アルル自身の身より心配なのは、先刻 足元に置いた買い物袋・・・
 ここでバトルになったりしたものなら、せっかくの買出しの品が全滅 してしまう恐れがあり、ビンボーなアルルにとって、大打撃・・・

 ――――― と、思いきや・・・買出しの品の多くはカーバンクルによって、とっくに 『安全な場所』にしまいこまれていたので、御安心(?)あれ。

「・・・サタンでも、来てくれないかなぁ・・・お金持ちだしぃ・・・」

 食品以外の物が入っていたと思われる袋を抱えあげ、そう呟くアルル・・・
 迫るウィッチ&ドラコ・・・

 ・・・この結末は、御想像にお任せすることにして・・・



 一方、その頃のサタン様は・・・

「よ・・・ようやく見つけたぞ・・・カーバンクルちゃんの・・・いや、我が妃・・・アルルの 店を・・・!!」

 オープン当日より、ずっと探し続けていたのかどうかはナゾであったが、とにかくサタン様は、 カレーショップ『おなかがぐ〜』の前に辿り着いていた。
 ・・・が。

「あ・・・開かない・・・鍵がかかっているのかっ!!」

 よく見ると、扉の横にかけてある札は『準備中』・・・ アルルは買出しに出かけているのだから当然中には誰もいるはずがない。

「くっ、これしきのことで、諦めてなるものかっ!」

 そう言ったかと思うと、サタン様は突然、店の中に向かって 大声で呼びかけたり、扉や壁を叩き続けたり・・・と、魔界のプリンス (笑)らしからぬ行動を始めた・・・が、当然それは 無意味なものであっただけでなく、騒ぎを聞きつけたのか大勢の野次馬が 集まる結果となり、サタン様は非常に恥ずかしい思いをしたらしい。


 『サタン様、御乱心(笑)』

 ・・・そして、その翌日の魔導新聞朝刊の見出しは こんな感じだった・・・らしい。





『おなかがぐ〜』 第三話に続く・・・

一つ前の話を読み直す





あとがき・・・


 あらら・・・?
 思ったより第二話って、短かったんですね・・・今回初めて気が付きました。

 ・・・というのも、別館に置いていた時は、『おなかがぐ〜』って最初は、三話で1セット。 途中から二話で1セット・・・って形で掲載していたものだから、 全然気が付きませんでした。

 他にも、タイトルロゴを外したり、仕切り線をタダの線にしたり・・・と、いろいろ変更点は ありますが、唯一変えていないのが壁紙。
 別館オープン時は、あまり深いこと考えていなかったのですが、やっぱりテキストページは 表示が速い方がいいな・・・っていうのがあじの考え。
 そこで本館の小説達には余計な小細工をせず、テキストのみで掲載していたので、 本当はそれに合わせようかとも思ったのですが・・・
 やっぱり『ギャグ』小説ですから、画面が黒っぽいのは嫌だし、かといって明るい背景色にしたら、 なんだか締まりがなくて間の抜けたページになっちゃうし・・・というわけで、壁紙は そのまま前のものを使うことにいたしました。
 作っても良かったんですけど・・・ね。





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