『おなかがぐ〜』






第一話 『カレーショップ現る』



「カーくんも、ボクも、もっといーっぱいカレーを食べたいな・・・って 思ったから、思い切ってカレーショップを始めることにしたんだよっ☆」

 いつも元気な魔導師の卵、アルル・ナジャ。
 この日も元気いっぱいの笑顔で、誰に言うとでもなくそう言った。
 そう・・・誰に言うとでもなく・・・で、ある。

 実を言うと、オープン初日だというのに、客足はゼロ。
 確かに急なオープンだったため、宣伝不足の面もあったかもしれないが、 アルル自身可能な限り、PR活動にも努力してきたつもりだった。
 街角でチラシを配ったり、大きな看板も立てた。

『カーバンクルのいるおみせ・カレーショップ・おなかがぐ〜』

 われながら良い出来だと思う。
 店の前には大きな開店祝いの花輪を置いてみた。・・・普通、 こういったものは、自分で用意する物ではないのだろうが、 アルルのところには花輪どころか、花一輪届かなかったのだから仕方あるまい。
 急遽紙で作った花輪モドキであるが、 遠くから見ただけで、そうとバレることはないだろう。
 唯一の問題点といえば、立地条件であろうか。
 町から遠く離れた一軒家。・・・目立つことこの上ないが、 用でもなければわざわざこの辺りまで足を伸ばす物好きはいないであろう。

  「でも、だーれもお客さんが来ないんだ・・・ボク、悲しいよ・・・」

 さすがのアルルも、意気消沈気味である。

 もともと、このショップオープンのきっかけは、自分達がカレーを食べたい・・・という単純な ものであったはずである。家庭用の鍋一杯のカレーでは、カーバンクルの胃袋を満たすことなど できないし、何よりアルル自身も相当のカレー好きである。『カレーショップを開けば、 思う存分カレーが食べられる』・・・そんな安易な理由ではあったものの、 とりあえず店は開いたし、業務用の大きな鍋も、材料もとりあえずは山のようにある。
 本来の目的だけを考えると、もう十分満足すべきことなのだろうが、 やはり店を開いた以上は、客に来てもらいたいと思うのが人情であろう。

「お客さんが来たら、お水出して、それから『御注文は?』・・・って聞くんだよっ」
「ぐっ☆」

 ・・・そう、一応この場には、 アルルの他にカーバンクルがいるわけであるから、今までの彼女の台詞は 決して独り言ではなかった。
 が、誰もいない店内で、膝を抱えてしゃがみこみ、カーバンクル相手に ぶつぶつと喋り続ける姿は、ある意味、独り言より太刀が悪いかもしれない・・・

 と、そんな時、ドアベルが小気味良い音を響かせた。

「あ、お客さんだ」

 アルルはすぐさま立ち上がり、冷たい水を用意すると、営業スマイルを浮かべながら客の元へと 向かう。そして客がまだ席につくのも確認せずにこう言った。

「いらっしゃいませーっ☆ 御注文は?」


「お前が、ほしい」


 身を乗り出して、客・・・シェゾ・ウィグィィは言い放った。

「じゅげむっ☆」

 アルルの反応は、恐ろしいほどに早かった。
 次の瞬間には、客の姿はもうどこにもなく、空の彼方に一番星・・・

 魔導師の卵であるアルル自身、こんなに見事にこの大技が成功するとは 思ってもみなかったのだが・・・

「ま、シェゾのことだから、死にはしないだろうけど・・・この大穴、どうしよう・・・」

 店の壁には巨大な穴・・・
 アルルの魔法でシェゾと共に吹き飛んでしまったのである。

「困ったなー。修理代なんてないよ・・・」

 なぜアルルがこんな辺鄙な場所に店を構えたのか・・・その理由もここにあった。
 つまり、アルルはビンボーだったのである(笑)
 ビンボーだったから、良い場所に店舗を借りることもできなかったし、当然 壁の修理代などあるはずもない。

「あ〜あ・・・『カーくんの』お店・・・って書いといたら、 サタンだったら絶対に来ると思ってたんだけどなー」

 彼が常連客になりさえすれば、借金を返すのも楽であろう・・・
 そう思ってアルルは店の看板にカーバンクルの名を入れたのであった。
 サタンの目に触れるような場所を狙ってチラシをはったりもした。 ・・・が、自分から直接声はかけてはいない。まるで、彼の財力を狙っているかのようで、 さすがのアルルも気がとがめたのである。
 ・・・とはいうものの『財力狙い』は事実そのままなのであるわけだが・・・
 まあ、『財力』だけを頼るのなら、ルルーの方がアテになるような気もしたが、 彼女がわざわざアルルの店の売上に貢献してくれるとも思えず・・・

「もう・・・疲れちゃったなぁ〜」

 アルルは椅子に座りながら大きく伸びをする。その背後では、カーバンクルが ひたすらカレーを皿に盛り付けていた。

「・・・ん?」

 何か、遠くから音が聞こえる。
 まるで地響きのようなその音は、間違いなくこちらに向かってやって来ている。

「ぞう大魔王・・・? でも歩いてる・・・ってよりはまるで 走ってるような音だし・・・とにかく今度こそ、お客さんだぁっ☆」

 アルルが立ち上がったその瞬間である。
 大きな音と共にドアを開け放ち、入り口に仁王立ちになっていたのは・・・

「ルルー? いったい・・・」
「ちょっとぉーっ! アルルーーーっ!!!」

 突然やってきた新たな客は、アルルの言葉を遮って大声で捲くし立てた。

「生ゴミは月・水・金の朝7時から9時までって決まってるのよっ! しかも、 うちの町内会のゴミステーションに捨ててくなんてっ!!」

 良く見るとルルーは白い袋のような物を引きずってきているようだった。
 だが、アルルにはそんな遠くのゴミステーションにゴミを捨てに行った記憶は・・・

「それに、なぁに? この袋・・・ちゃんと半透明のビニール袋使いなさいよねっ!」

 捲くし立て続けるルルーをさらに良く見ると、 彼女の手に握られている白い袋は、いわゆるゴミ袋とは違う・・・例えるなら 布製の・・・

「・・・ゴミ?」

 そう、懸命な読者は既にお気付きかとは思うが、彼女が握り締めているものは 白いマント・・・
 つまり、ルルーは先刻じゅげむで飛ばされて来たシェゾを ここまで引きずって来たというわけで・・・

(別にボクんちから出たゴミじゃないもん・・・)

 そうは思えど、勢い付いているルルーへの反論するタイミングを見つけ出す ことはかなり難しい。

 それはさて置き、アルルにも『ゴミ』の正体がわかったというのに、まだゴミ扱いされている シェゾの立場を考えると悲しい話なのだろうが、当のシェゾはというとジュゲムで飛ばされた上、 ルルーに引きずりまわされたため、完全に 目を回してしまっているため、本人には多分この会話は聞こえていない。

「大体あんたのとこは『店』なんだから、『事業者ゴミ』 として処理するものなのよ! 家庭用に混ぜて出さないでよねっ!!」
「あのさぁ・・・」
「・・・?」

 ようやくアルルが話に割り込んだ。

「ルルーってさぁ・・・」
「・・・なによ?」
「案外・・・おばさんくさいんだね」
 思わずアルルの口を付いて出たこの言葉に、ルルーは過激に反応した。
「ぬ・ぬぁんですってぇーっ!?」

 さすがのアルルもこの迫力には押される。

「い・・・いや、えっと、その・・・つまりぃ・・・じ、じいやさんは?」
「はぁ?」
「だって、いつもはゴミの始末とかって、じいやさん達にやってもらってるんでしょ? だから、 今日はどーしたのかなー・・・なぁんて思ったりなんかして・・・」

 なんとか話をはぐらかそうとしどろもどろで答えるアルル。

「それがいないのよっ! 午前中に道を訊ねに来た人を案内する・・・って出てったっきり。ミノ には探しに行かせてるけど・・・って、 アルルっ! ごまかそうとしても、許さないわよぉっ!!!」


 ・・・その後、アルルとルルーとが、 辛うじて店の外観が留まるを程度の破壊行為を 繰り広げたということは言うまでもない。

 そしてこの日オープンしたアルルの店のカレーは、 ルルーが店に乗り込んできて、『ゴミ』について捲くし立てている間に、 全てカーバンクルの胃袋の中に収まってしまったことも付け加えておこう。



 一方、その頃のサタン様は・・・

「いや・・・あの・・・」

 サタン様は、そこはかとなく困っていた。
 普段はエラソーにしている彼でも、人にものを訊ねることくらいはあるし、今日は特に 御忍び(?)で街に出たものだから、あまり強気な態度で接するわけにもいくまい。

 目前にいるのは一人の老人。
 少し耳が遠いようだったが、街のことには詳しい様子だったので、 道案内を頼んだのであった。
 ・・・が、彼らの前には小さな露店が1つあるのみ・・・

 サタン様にはわからなかった。アルルの店への案内を頼んだのに、 なぜ辿り着いたところが、もももの露店なのか・・・

「・・・!」

 そして、まじまじとその露店を見たサタン様は、すぐに気がついた。
 露店に掲げられた赤いノボリ。そこに書かれた文字は・・・

『新発売! ぷよまん・かつを味!!』

 意を決してサタン様はこう言った。

「い・・・いや、私の探しているのは、『オカカが具』ではなくて・・・ 『おなかが・・・」
 果たして理解しているのか、しきりに老人は首をひねっている。


 この時、サタン様は・・・思いっきり迷子だった・・・






『おなかがぐ〜』 第二話に続く・・・






あとがき・・・


 別館からの移転に伴って、若干の加筆をした上での『おなかがぐ〜』です☆

 『おなかがぐ〜』を知らない方のために、ちょっと解説しますと・・・
 この物語は、『ある日突然カレーショップをオープンしてしまった、アルルの苦難の物語』・・・ っていうか、つまり『ギャグ』です。
 元々は、同人誌『ぶよぶよ』内に収録していた漫画作品だったのですが、いずれ『ぶよぶよ痛』 (『通』ではなく・・・)を出したら続編を書こう・・・と、決心していたものの、結局なかなか その機会に恵まれず、WEB上で公開小説として・・・ということになったのが発端でした。
 ちなみに、1〜2話までが同人誌収録作品です。

 当初この小説には『あとがき』は用意していなかったんですけど・・・本館の仕様に合わせる という意味で、ここも加筆してます〜





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