『SAGA』 第一章第七話 『意外な行動』洞窟内は、徐々に狭くなっているようだった。 「サガ様・・・この先も行き止まりです」 途中何度か分岐点らしき亀裂をみつけたものの、結局はその繰り返しで ある。 彼がレイファ達とこの岩山の洞窟上の亀裂の内部に入ってから、 まもなく小一時間が過ぎようとしていた。 二手に別れてからは、どのくらい経ったであろうか・・・ 彼と別れてからも幾度か、洞窟内が小刻みに振動するという危険な状態に 出くわしてはいたものの、彼らの進路は比較的容易なものであった。 「・・・この先も、恐らくはそうだろうな」 サガは呟いた。 かなり奥の方まで進んできたためか、先刻まで感じていた空気の流れは ほとんど消えていた。 音の響き具合から考えても、この道にこれ以上の先は ないと判断しても問題はないであろう。 「よし、引き返そう・・・あまりのんびりと探索 しているわけにもいかないからな」 兵にそう声をかけ、彼自らが先頭に立って来た道を引き返す。 「 ――――― ?」 不意にサガは足を止める。 (・・・なんだ? この冷気は・・・) ほんの僅かではあるが、確かに洞窟内の気温が下がりつつある。 しかも、自然現象とは言い難い、明らかに不自然な気温の降下・・・ 「おかしい・・・小宇宙はほとんど感じないのに・・・」 単純に考えると、この気温の低下はレイファの仕業と考えるべきことなので あろう。 だが、サガの言う通り、彼の小宇宙はほとんど感じられない。 凍気を操る技は、単なる力技とは大きく異なる。 小宇宙をここまで押さえ込んだ状態で、 使いこなせるものなのだろうか・・・ それ以前に、サガ達が洞窟内を探索していることを知りながら、洞窟内を 凍結させようとする行為自体考えられない。 「・・・何があったのはわからないが・・・ 急いでレイファと合流しよう」 兵達を促すと、彼は自ら先頭に立って今来た道を引き返す。 洞窟内の至るところの壁面は、先刻通った時よりも更に危険な状態に なっているのが一目でわかる。 そして次第に気温も低下し続ける・・・ (いくらなんでも、これは尋常ではない・・・) 小宇宙を使ってテレパシーを飛ばしても良かったが、洞窟内には 新たな亀裂が広がり、それすらも危うい状態になりつつある。 やがてレイファと分かれた地点まで辿り着くが、予想通り、そこには 彼の姿はない。 「レイファを追うぞ!!」 ――――― 胸騒ぎがした。 洞窟の崩壊は間近であろう。 ここで崩壊に巻き込まれたなら、ここに居合わせた全員の命ばかりか、 麓の村や街への危険も避けられない。 一旦、脱出することも考えた。 「早く・・・! 時間がない・・・」 それでも彼は、レイファ達が進んだ筈の通路に足を進めた。 (・・・大丈夫、まだ持ちこたえれる筈だ・・・) 気温はますます低下を続け、やがて洞窟の壁面に霜状の白い幕のような ものさえ見かけられるようになった。 「・・・近い」 それでもほとんど小宇宙は感じられない。 「あたりを良く探せ。・・・何か異変はないか!!」 言いながらも自ら細心の注意をもって奥へと進む。 「サガ様・・・!」 兵の言いたいことはすぐに理解できた。 まるでホール状になっている少し開けた通路のほぼ半分を塞ぐかのように、 洞窟壁面の岩盤や土砂が崩れてきている。 先刻幾度となく聞こえていた振動音の一つはこれだったのであろう。 「うう・・・」 不意に岩の中から声が聞こえた。 「おいっ・・・! 大丈夫かっ!!」 兵の一人が声の方に駆け寄ってそう言った。 そこには、崩れてきた岩盤にちょうど挟まれるような形で、一人の兵が 動きを封じられたいた。 レイファと、ともに奥へ進んだ筈の兵であった。 サガ達が近くに来たことで、手放していた意識を取り戻したのだろう。 呻き声が聞こえなければ、きわめて発見は困難であったろうが、怪我自体は さほどではないようである。 彼が言うには、他の兵達も同じく崩落に巻き込まれたとのことであった。 その言葉に従って、辺りを探してみたところ、 土砂に完全に埋もれた遺体を見つける結果となった。 生き残ったのは彼一人。他の者の遺体を掘り起こすには、危険なほど 岩盤は緩んでいる。 サガは、兵達に怪我人の救出だけ命ずると、 単身洞窟の先に進むことにした。 レイファが、怪我をした上、動きを封じられている兵をそのまま見捨てたまま 先へ進むとは考え難い。 ( ――――― なにか、あるのかもしれない・・・) 通路は一旦細くなったが、再び先刻負傷兵を発見した場所と同じような ホール状に開けた場所に辿り着く。 「・・・これは・・・!!」 思わずサガは、驚愕の声をあげた。 そこは、今までの気温低下とは比にならないくらいの 別世界と化していた。 壁面は全て氷で覆われ、頭上からは巨大な氷柱状の巨大な氷が、文字通り 柱のように幾つも並んでいる。 気温そのものも、単に『寒い』というレベルを超えている。 「・・・サガか?」 氷の空間内に声が響く。 「レイファ・・・? 一体これはどういう・・・」 姿の見えぬ相手にサガは問いかける。 「話は後だ。・・・今、お前が入ってきた通路を少し戻ってきた 所に・・・」 「負傷した兵なら今救出中です。・・・死亡した者については残念ですが、 遺体を掘り起こすことは不可能でしょう」 先回りしてサガが答える。 「・・・そうか。それならいい。・・・実は、この通路は山の 反対側へ続いているらしい。・・・距離的にも、ここから聖域側へ戻るよりは 進んだ方が安全だろう。兵達を一刻も早く脱出させろ」 相変わらず声のみがそう告げる。 「わかりました・・・」 『しかし、あなたは一体どこに・・・?』という問いを辛うじて飲み込んで、 サガは一旦引き返し、ちょうど負傷者を助け出した兵達と合流する。 彼らに詳しい事情を説明できるだけの状況を把握していなかったせいも あるが、サガは有無を言わさず兵達を新たな出口へと先行させる。 「レイファ・・・負傷者は無事救出しここから脱出させました。こんな時に 冗談はやめにして・・・」 そこまで言いかけて、サガは絶句した。 ――――― レイファの姿が・・・氷柱の一つと化して いたからである。 「レ、レイファ!? これは一体・・・!!」 そのまま彼に駆け寄っても良いものか・・・ サガは一瞬躊躇した後、ゆっくりと彼の側へと歩み寄る。 先刻は、逆の位置から彼の姿を探していたため、見つけることができなかったのであろう。 その体の大部分は厚く氷に覆われており、辛うじて、顔から胸、 そして右腕のみが空気にさらされているという状態。 ――――― そして・・・ 「サガ・・・この子を頼む」 一瞬、レイファの言葉の意味がわからなかった。 「・・・咄嗟のこととはいえ、かなり体温を下げてしまった・・・ 手当てが遅れてはいけない」 よく見ると、レイファの唯一自由になっていたと思われていたその腕には、 この場には些か不釣合いとも思われるほどの幼い子供が 抱きかかえられていたのである。 (まさか・・・この、子供一人を助けるために ――――― ?) サガは、言葉を失った ――――― 一つ前の話を読み直す あとがき・・・ あららぁ〜・・・本当は、この話はここで完結させるつもりだったんです けどねぇ・・・終わりませんでした(笑) 次回は・・・多分、半ば皆さんの予想通りになることでしょう・・・が、 その後の展開は・・・多分誰にも読めまい。・・・フフフ(爆) というわけで、お楽しみに〜 メニューページへ戻る 全ジャンル小説図書館へ戻る 『聖闘士星矢』星矢小説へ戻る |