『SAGA』 第一章






第二話 『黄金聖闘士称号試験』



「サガ!」

 不意に背後から声がかかる。

 いや、正確には『不意』ではない。
 声の主は、アイオロス。

 射手座・サジタリアスの星の輝きを持ち、この聖域にて優秀な養成師の下で、 日々修行を積み重ねている、黄金聖闘士候補生である。

 ・・・が、当のサガも、同じく双子座・ジェミニの黄金聖闘士候補生の 一人。
 彼が、この一本道をサガを追って来ていることくらい、当然気が 付いていたし、恐らく彼が名を呼ぶであろうことも察しが付いていた。

「・・・アイオロス、何か用か?」

 振り向きざまにサガは答えた。

「ずいぶんと素っ気ないなぁ・・・だいたい『アイオロス』って、 呼び捨てにするなんて、失礼な奴だぞ。『アイオロス様』 と呼んでくれなきゃ」

 おどけた口調ですかさずそう返す。

「・・・ってことは・・・合格したのか?」
「今日から黄金聖闘士様だぜっ!」

 年齢に似つかわしくなくポーカーフェイスのサガも、親友の『合格』の 知らせに、さすがに喜びの表情を顔中に浮かべる。

「なぁんて、な。・・・やっぱり、サガから『様』付けで呼ばれるなんて ヘンな気分だし・・・というわけで、サガも試験頑張れよっ!!」

 アイオロスの台詞からもわかる通り、射手座の称号試験は、 午前中に終了していた。
 そして、当のサガは、今まさに試験会場でもある闘技場に向かっている ところだったのである。

「そんな調子のいいことを言って・・・どうせカノン達にも 同じことを言ってきたんだろう?」

 射手座の黄金聖闘士候補生はアイオロスただ一人。
 多くの場合、黄金の輝きを持った者の存在は、称号を手に入れるその日まで、 公には伏せられているため、彼にとっての『同胞』は、同じく聖域にて 黄金聖闘士候補として修行に励む、サガとその双子の弟のカノンを含む カルディスの四人の弟子達に他ならなかったのである。

「ばれたか・・・」

 悪びれもせずにアイオロスはそう答えた。

「とりあえず、激励は感謝するよ。・・・それじゃあ」

 年齢に似つかわしくないポーカーフェイスを取り戻し、サガは再び 闘技場への道に歩を進める。

「頑張れよー! 一緒に女神を守ろうなー!!」

 アイオロスの声がもう一度聞こえた。



「ジェミニの候補生達は前へ!」

 闘技場に厳格な声が響く。
 石畳の闘技場に、幼き4人の候補生の姿があった。

 この、厳しく、澄み渡った空気を思わせる緊張感が サガは大好きだった。

 正確には、心休まる情景だったと言い換える べきだろうか ―――――


 サガには、生まれ故郷の記憶はほとんどない。

 両親は、ギリシャの片田舎の小さな村に住んでいて、流行り病で命を落とした ・・・ということ位は、知っていたし、実際その村で、両親と共に暮らしていた という事実は記憶の奥底にはあるのだろうが、彼にとっての、最も鮮明な 記憶は、黄金の輝きを持った候補生として、初めてこの聖域に連れられて 来た時の、凛とした聖域の雰囲気そのものだったのである。

 どこまでも続く石畳、ギリシャ神話そのものを思い起こさせる美しい外見の 建造物。
 そしてなにより、そこに存在する神聖な輝き。

 普通の子供であるなら、圧倒されてしまうであろうこの聖域の空気を、サガは 心地よいと感じたのである。

 自分は、選ばれてここにやってきた。

 ここにやってくるために自分は存在している のだ ――――― と。



 試験は実技から始まるのが慣わしであった。

 候補者が複数いる場合は、まずこの試験で篩いにかけて、最終的な候補者を 選別するのである。

 1対1の組み手が二組。偶然なのか意図的なのか、サガとカノンは 別の組になっている。

 闘技場の観客席の中央に据え付けられた玉座には教皇の姿があり、 その脇にはジェミニの聖衣を纏ったカルディスの姿があった。
 他にも数名の側近のものと、試験を運営する兵の姿などが見られたが、 他の称号の試験と違い、黄金聖闘士の試験の場合はそれを許されたもの以外の 立ち入りはきつく制限されていた。

 午前中に行われたサジタリアスの試験も、この一つ前に行われ合格者こそ 出なかったが同じく黄金聖闘士のバルゴの試験についても、 これは同じことであった。
 ただ、これら二つの試験と比べて、今回の ジェミニの試験の場合、合格者が出た時には『黄金の称号の引継ぎ』という、 めったに見ることのできない神聖な儀式が執り行われるため、多くの者が 最も興味深い試験として注目していたのは事実だった。

「カルディス・・・貴方は優しすぎた」

 不意に玉座の背後から声がかかった。

「レイファ・・・? どうしてここに?」

 試合から一瞬目をそらし、カルディスが問うた相手は、彼の言葉通り、 アクエリアスのレイファその人だった。

「貴方の弟子の成長と、あなた自身の最後の仕事を見届けにきたのです。 何か、問題はありますか?」

 皮肉めいた口調でレイファは答える。

「だが、お前までこんなところに出向いてしまっては、 十二宮の方は・・・」
「配下の兵や、信頼のおける白銀聖闘士達に守りは固めさせてある。 ・・・第一、未だ女神の降臨されていない今の聖域・・・しかも教皇の間も 無人だというのに、攻め込むような愚か者はいるはずもないでしょう」

 それでも何か言いたげな顔をしているカルディスに向かって、レイファは もう一言こう付け足した。

「この2年間、弟子の修行に付きっきりだった貴方に代わって、十二宮は私 一人で守ってきたのです。しかも、今日貴方が引退してしまえば、新米達が 成長するまで、また私一人で十二宮の守護を続けなくてはならないことになる。 ・・・中休みくらい、頂いても・・・ バチは当たらないと思いますがね」

 彼らのこの会話の最中も、実技の試験は続けられていた。

「話を戻しましょうか・・・」

 レイファが再び口を開いた。

「・・・話・・・?」
「貴方の話です。・・・言ったでしょう、貴方は優しすぎた・・・と」

 そう、確かに彼は最初にそう言ってこの場に現れたのである。

「貴方は黄金聖闘士としては立派な先輩であるし、その実力は誰もが認める ものだろう・・・だが、師としては、限りなく失格に近い」

 レイファのその言葉に、カルディスはもちろん教皇も驚きを隠せなかった。

「あの4人を御覧なさい。・・・貴方は4人を平等に育ててきた。・・・が、 もし私なら、そうはしない。あの双子以外は早々に切り捨てていた」

 双子・・・とは、当然サガとカノンのことを指しているのであろう。
 先にも述べた通り、黄金聖闘士の候補生の身元は伏せられている筈であるが、 レイファはそれを知っていたのか、それとも単に見たままの印象で こう言ったのか・・・

「残りの二人の実力なら、白銀の試験を受け直しさえすれば、必ず合格できる であろうし、良い聖闘士として成長できただろう・・・だが、貴方が平等に 育ててしまったがために、彼らは双子との実力の大きな隔たりに まだ気付いていない。・・・いや、 そろそろ気付いている頃だろうか・・・」

 実戦、というより試合形式の試験であったし、仮に黄金の輝きを持った者 の戦いであったとしても所詮は子供同士。
 本物の聖闘士の戦いのような、命がけの危機迫るものとは程遠いもので あったが、確かに彼の言う通り、実力の差は歴然としていた。

「彼ら2人は、もうすぐ大きな挫折感を味わうことになる。・・・もちろん 挫折は結構。強い聖闘士になるためには絶対的に必要なものだ。だが、今まで 黄金聖闘士候補生として貴方の元で優しく育てられたあの少年達は、この試験の 後突然にして、今までの特別扱いの待遇も、黄金の輝きを持ち合わせて 生まれてきたというただそれだけの根拠のない誇りと自信の全てを失う ことになるだろう・・・それに耐えうる力を持ち合わせているのなら それに越したことはないが・・・」

 レイファが言葉を切った。

 勝負がついたのである。

「やはり、双子が残ったか・・・」

 教皇が口を開いた。

「どちらも中々の腕前だ・・・だが、最後に残るのは一人。あの2人・・・ よく似ているようで、どこか全く違う何かを持ち合わせているような 雰囲気を持ち合わせている。果たして、女神はどちらに微笑むのか・・・ 黙って見届けようではないか」

 


『SAGA』 第一章 第三話に続く・・・

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あとがき・・・


 ようやく出てきました☆ サガとアイオロス (・・・と、名前だけカノン)

 ・・・でも、ちょっとだけ・・・(笑)

 次回は、ちゃんと出ますよ〜 次はカノンメインか・・・な?  (原案通りの話になれば、結構長い話に なるかも・・・2回にわけた方がいいかなあ。どうしよう・・・)

 ちなみに、プロローグから第二話までは一気に書き上げちゃいました。
 だって、メインキャラが出てこないまま『次回に続く・後御期待』って 言われたって、『御期待』できないでしょ? (笑)

 そんなわけで、今度こそ『後御期待☆』





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