『SAGA』 第一章第一話 『生まれ来る新しい星々』聖域に『星術師』という役職が存在するのは、 案外知られていない。 聖闘士とは、神話の時代より女神と、彼女の守護する地上のために、 命をかけて戦いつづけてきたという、いわゆる神聖な存在である。 単に、力が強いとか、戦いに秀でている・・・といった理由から誰もが簡単に なれるものではないことは御承知の通りである。 多くの場合は、既に聖闘士の称号を持つ者や、『養成師』と呼ばれる文字通り 聖闘士の養成を専門に行っている者達から、血の滲むような特訓を受け、 その上で聖闘士としての力量・小宇宙を試され、その結果が『聖闘士足るに 値する』と判断された場合のみ、初めてその称号と共に聖衣を授けられる わけである。 ・・・が、それも、白銀・青銅聖闘士に限ってのみの話である。 聖闘士の最高峰に位置するという黄金聖闘士の場合、 単なる修行や鍛錬でその力を身につけることは不可能と言って良い。 聖闘士に限らず全ての人間には例外なく、生まれもっている『星の輝き』が 存在するという。 俗に言う占星術などに近い考え方であるかもしれないが、その性質を大きく 異にしていて、各々の体内に眠る神秘的な力がその『星』そのものであり、 一般的に占星術のように、規則性や法則性から導き出せるものではない。 従って、占星術上にて『牡羊座』だとか『牡牛座』だとかと分類されている 人々に、それらの輝きが眠っているとは限らない。 第一、星の数は星座になっているものだけで88。名もない星々まで 加えると文字通り無数に存在するのである。 確立上から考えても、 十二の星座の輝きを有するものの割合は限りなく低くなることは明白であるし、 太陽の光の恩恵を受ける黄道十二星座は、他の星々とは違った特別の『輝き』 を有しているのである。 ――――― かえって、黄道十二星座を守護星に 持つ者は、皆無と言っても過言ではない。 むろん、誰であろうとも『星の輝き』は 生まれながらに定められているものではあるが、 一生涯その星の元に運命を紡ぐもの、というものでもない。 人の人生など、本人の努力や周囲の環境などで大きく変化していくもの であろう。 それと同じように、『星の輝き』の強さや明るさが変化することはもちろん、 守護する星そのものが変わってしまうこととて 珍しいことではないのである。 現に多くの聖闘士達は、初めから自らの『星』を知った上で、 その星座の称号を目指しているわけでわない。 まずは修行の中で、自らの『星の輝き』を目覚めさせた後、その『輝き』に 見合った称号を目指してさらに修行を続けるか、逆に、自らが目指す称号を 定めた後、その『輝き』に自らを近づけるような特訓を課していくかの どちらかであるのが普通である。 だが、黄金聖闘士だけはその限りではない。 先にも述べた通り、黄道十二星座の『輝き』を有してこの世に生まれてくる 者はほとんど存在しない。 むろん、後天的に備わる可能性も限りなく低い。 例え何百人の聖闘士候補生を集めたとしても、その中に『黄金の輝き』を 見出す可能性はゼロに近いのが現実なのである。 そこで黄金聖闘士に限ってだけ、予め『星の輝き』を有する逸材を 見つけ出しておき、幼子の内から徹底的に磨き上げる・・・という方法が とられていた。 もちろん、いくら『星の輝き』を有している者であっても、必ずしも黄金 聖闘士になれるというものでもない。 むしろ同じ時期に数名の候補生が挙がったにもかかわらず、一人の合格者も 出なかったという事例も珍しいことではない。 元来、二百数十年ごとの聖戦に備えて降臨する女神を守護するのが聖闘士の 役目。平和な時代においては、聖域を守り絶やさないための必要最小限の人員 さえ存在していれば何の問題もないのである。 聖戦間近になれば、自ずと『星の輝き』を持った候補生達の数も増え、 その中には必ず真の黄金聖闘士の称号に相応しい者が存在する のである。 説明が長くなってしまったが、その『黄金の星の輝き』を見つけ出す者・・・ それこそが『星術師』なのである。 普通の人間の『星の輝き』は極小さなものなので、それを見つけ出すのは 非常に困難なことである。 そのために特別に設けられた役職なのであるが、その実態は謎に包まれた ものであった。 一介の訓練生や雑兵はもちろん、青銅・白銀聖闘士であっても、その役職の 存在すら知らない者も少なくないばかりか、上級の役職に就いている者や 黄金聖闘士達にさえも、その名は明かされていない。 何人の星術師が存在するのかということも、他に何らかの称号や役職を 兼任しているのかということも、全く持って謎なのである。 そのため、星術師が、どこでどのようにして『黄金の輝き』を見つけ出して いるのかも公にはされていないのだが、恐らく特別な決まり事は存在しないの であろう。 後に黄金聖闘士としてこの聖域にやってくる、アリエスのムウ、バルゴの シャカ、スコーピオンのミロ、カプリコーンのシュラらが聖域の外の世界から 選ばれた、全く持って俗な言い方ではあるが『スカウトされた黄金聖闘士』で あるのに対して、タウラスのアルデバラン、アクエリアスのカミュ、 ピスケスのアフロディーテらは、聖闘士になるために、または偶然に何の意図も なく聖域にやってきたところで星術師の目に留まった、と伝えられている。 また、レオのアイオリア、キャンサーのデスマスクらにおいては、既に、 別の聖闘士候補生としての修行中に『黄金の星の輝き』を開花させたため、 一般候補生から黄金聖闘士の候補生に昇格することになったのだと 言われているが、こんなケースもそれほど珍しい話では ないらしい。 そしてこの物語は、その星術師が、数名の『黄金の輝き』を持つ幼子達を 選び出したその時に、 本当の始まりを告げたのであった ――――― 古い石畳の中央に、真っ直ぐに敷かれている赤い絨毯が、その場の 雰囲気を引き締めているようだった。 仮に毎日のようにここを訪れている者であったとしても、この場の厳格な 雰囲気に気圧されるのは間違いないことであろう。 ここは、聖域十二宮の頂点に位置する教皇の間。 玉座には前聖戦よりこの聖域を治め続けて来た教皇の姿があり、その目前 には一人の黄金聖闘士が傅いていた。 男の名はカルディス。双子座、ジェミニの黄金聖闘士である。 「やはり、考えは変わぬのか・・・」 教皇の問いにカルディスは小さく首を振った。 「女神の降臨が近い今、新たな聖闘士の誕生は喜ばしいことでは ないですか」 厳格な場であるにもかかわらず、カルディスの口調は、どこか親しげで柔らか な雰囲気を含んだものであった。 「しかし・・・」 「・・・私には、教皇・・・貴方のように、長く厳しい時代を生き抜いていける 強く逞しい肉体は、もはやありません。女神は、 ジェミニの星の輝きを宿しし子供達を遣わせることで、私の引き際を知らせて くださったのでしょう。・・・老兵に、これ以上の出番はありませぬ」 彼の言葉通り、その場で雄弁を述べた黄金聖闘士の姿は、他の聖闘士達から 比べて、あまりに年老いたものであった。 「わかった・・・ジェミニの輝きが世に現れたという事実は、曲げようのない ものであるからな・・・ それにしても、随分と心細くなることよ・・・」 聖域を束ねる者としては、些か心もとない言葉ではあるが、今現在の 聖域の現状を知れば、教皇の本心として納得できることであろう。 そう、この時点での黄金聖闘士の在籍数は、たった4名。 その内、アリエスの称号は教皇シオンが兼任し、彼と同じく前聖戦時よりの 生き残りであるライブラの童虎は、女神が施した封印の地を監視し続けるため、 遥か東国より動くこともままならない。そして、今この場にて引退を 申し出ているジェミニのカルディスと、もう一人が比較的若いアクエリアスの レイファ。 つまり、ここでカルディスが抜けてしまえば、実質戦える黄金聖闘士は レイファただ一人ということになってしまうのだ。 「なに、実際に引退する時は、私が新たなジェミニを育て上げた時。・・・ まもなく降臨するであろう女神と、この平和な時代を守るために、私は自らの 全てを捧げて、立派なジェミニを育ててみせましょう」 カルディスは目を伏せたままそこまで言うと、今度は教皇に向かって 誇らしげにこう告げた。 「・・・私は、この平和な時代を維持するための『場繋ぎ』の聖闘士に 過ぎない存在だったのですよ」 「あれから・・・もう2年か・・・早いものだな」 カルディスは、満天の星空を眺めてそう呟いた。 あの日、教皇に引退を告げたあの時から、 丁度2年が過ぎようとしていた。 そして早いもので、彼の4人の弟子達は、黄金聖闘士として・・・いや、 ジェミニの称号を得るものとしての資格が備わっているか否かの試験を明日に 控えているのである。 試験に合格するのは、4人のうち、たった一人。 場合によっては全員が不適格とみなされる可能性も否定できない。 そして、たった一人の合格者は、その時点でジェミニの称号のみを 得ることができるのである。 先に述べた通り、他の聖闘士と比べ、黄金聖闘士はかなり幼い時期から 修行を始めることが多い。 そのため、候補生達の中から女神に認められた者を先に選び出し、称号を 与えた後に、改めて今度は、候補生としてではなく、黄金聖闘士の卵としての 修行を重ねさせるのが慣わしであった。 したがって彼の弟子達は、皆、8歳にも満たない 少年達ばかりであった。 2年前、カルディスが預かった弟子達は全部で6人もいた。 本職の養成師であるならまだしも、黄金聖闘士としての任務との兼ね合い の問題もあり、当初は数人を他の者に任せるという話もあったのだが、 彼は断った。 自らの後任となる、ジェミニの聖闘士をその手で 育て上げたかったのであろう。 6人の弟子の内、一人は修行中の事故で命を落とし、もう一人は記憶を 消された上で、郷里に帰された。 そして残ったのはこの4人。 既に床についた彼らの寝顔に視線を移し、カルディスはもう一度 呟いた。 「新たな後継者を育てて、そしてこの聖域を去ろうと思ってきたが・・・ この子達の顔を見ていると、決心が揺らいでしまうな・・・」 カルディスの口元に笑みが浮かぶ。 「明日からは養成師にでもなって、この子達を・・・そして聖域を、 見守り続けることにでもしようか・・・」 一つ前の話を読み直す あとがき・・・ ・・・まだ、主要メンバーが出てきません(苦笑) 次の第三話にて、ようやく登場しますので、 どうか御安心くださいませ。 オリジナルキャラクターのカルディスと、まだ名前しか出てきてませんが、 アクエリアスのレイファは、若い時代のサガとカノンに大きく影響を 及ぼす存在・・・のつもりです。(自分なりに・・・) 先の展開を御期待ください☆ メニューページへ戻る 全ジャンル小説図書館へ戻る 『聖闘士星矢』星矢小説へ戻る |