『SAGA』 第一章






プロローグ



 青い空が、ただひたすら眩しかった。

 初夏と呼ぶには、まだ早い季節であろうが、元来温暖なこの地域には、 太陽の恵みは充分過ぎるほど降り注ぎ、人々の身体を痛めつける。

 それでも、作物を育てるには痩せきっているこの土地にとっては、 このくらいの日差しが丁度良いのだろう。
 主に果樹園を生計としているこの村では、決して豊かではなかったが、 明日の食料にも困るというような困窮した事態に陥る家庭は ほとんど見受けられなかった。


 そして、この男の家庭もそうであった ―――――


 男の名は・・・この物語には全く関係がない。

 他の者と同じくこの小さな村で、様々な果実を育て、 遠くの街に売りさばくのを糧としている男であった。

 雑草を抜き、土地を慣らし、害虫を取る・・・いつもと全く同じ作業。
 ただ、一つ・・・いつもと違っていたことといえば、彼のすぐ横には、 彼の愛する伴侶の姿がなかったということだけであろうか。

 妻は ――――― 臨月だった。

 夫婦には、他に身寄りがなく、身重の妻はたった一人で、夫の帰りを待って いるはずである。

 いざという時は、隣家の老婆が手助けしてくれることになっていた。
 今でこそ、ほとんど外出することのなくなったその老婆も、若い頃はそれは 腕の良い産婆で、遠くの村や街からも声がかかって出向いていったことも あるらしい。
 なんとも心強い存在であろう。

 近くにいてやりたい気持ちを抑えて、男は仕事に精を出した。
 これから生まれてくる子供達のためにも、少しでも働いて、生活を豊かに しておかなくてはならない・・・

 そう、『子供達』 ―――――

 夫婦の間に生まれてくる新しい命は、『2つ』・・・すなわち、『双子』で ある。

 遥か昔は忌み嫌われた存在であったことも、未だにその思考が根強く 残っている地域があることも、当然男は知っていたが、彼にとってそれは全く 意味のないことに過ぎなかった。

 仮に『忌み児』として疎まれる時代や地域に住んでいたとしても、男の 信念は揺るぎないものであっただろう。


――――― 天使達 ―――――


 そう、夫婦にとって新しい命は、まさしく『天使』 そのものであったのだろう。

 ふと、男は鍬を持つ手を止めた。

 太陽は、まだ東の空に輝いており、昼時の休憩には かなり早すぎる時間である。
 近くの畑で作業する村の仲間達は、 誰一人として男の様子には気付いていない。

 男は ――――― 空を見上げた。


 紺碧の空の彼方から、太陽の光を一身に浴びて舞い降りてくる 黄金の翼。

 ――――― いや・・・手を取り合って、この世に降り立とうとしている、 2人の小さな天使の姿を ―――――




 男は、確かに聞いた ―――――


――――― 全ての始まりともいえる、天使達の産声を ―――――






『SAGA』 第一章 第一話に続く・・・






あとがき・・・


   ・・・と、言いましても、今の段階では何にも・・・(無責任)

 とりあえず、引き続き第一話の方を読んでいただけたら嬉しいです。

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