『闇が 光を 照らす時』






第一話 『樹海の中の戦い』



――――― 闇の中に おぼろげに輝く 銀色の光 ―――――


どんなに厚い雲が、夜空を覆いつくしたとしても

無数の星の瞬きが、全て闇に閉ざされてしまっていても


――――― 闇の中に おぼろげに輝く 銀色の光 ―――――



月の光


満月の夜の魅惑の光



――――― それとも ボクを包む 暖かな・・・命の輝き ―――――



















「あ、いっけない・・・」

 大きく傾きかけた太陽の色に気がついたのか、少女は野草を摘む手を止めて、 誰にともなく呟いた。

「早く帰らないと、日が沈んじゃう。・・・ちょっと 足りないかもしれないけど・・・ま、いいか」

 手にしたカゴの中の野草の量は、予定していた半分程度のものだった。
 だが今の時点で、この丘から家までどんなに急いだとしても、 日が落ちる前に戻ることは難しい状況である。

「続きは、また明日っ」

 楽天主義が少女の取り柄の一つなのであろう。
 そして、街の光がすぐ近くに見えるような、こんな小さな丘であっても、 少女は『夜』を迎えることを極端に恐れていた。

「さぁ、急がなくっちゃ。先生もきっと心配してるからね」

 独り言を呟きながら、少女は街の灯りに向かって駆け出した。  



 * * * * * * * * * 



 ――――― 夜の闇は嫌いではない。


 彼は常々そう思っていた。

 いや、むしろ好ましく思っていた筈である。

 華やかな光溢れる世界に、ただ一人背を向けて歩き続けてきた『自分』と いう孤独な存在。


 ――――― そんな生き方も、嫌いではない。


 だが ―――――


「この闇が、鬱陶しい・・・」

 月の姿は雲に覆われていて全く見ることができない。
 僅かに漏れる光の位置から、辛うじて進むべき方角を知ることが できる程度のものであった。

 いや、正確に言うと、彼には進むべき方角など見えてはいなかった。

 文字通り『暗中模索』・・・という精神的に追い詰められたかのような この状況。

 それを指して、彼は『鬱陶しい』と称したのかもしれない。


 ――――― それでも、夜の闇は嫌いではない。


 そう、あの日も、こんな夜だった ―――――



 * * * * * * * * * 



 一瞬、魔力が弾けるのを感じた。

「 ――――― !!」

 距離は、そう遠くない。
 だが、こんな人里離れた地で、感じるべき魔力ではない。


 魔力の主は、アルル ―――――!?


「まさか・・・なぜこんなところに・・・」

 ここは常人が立ち入ることは滅多にない樹海の奥。
 特別危険な地だというわけでもないのだが、 単に『人が踏み入る理由』が全くない森なのである。

 森を抜けても険しい山岳地帯があるだけで、他の町への近道になるわけでも ないし、研究者やトレジャーハンター達の興味を惹くような遺跡や洞窟が存在 するという話も聞いたことがない。
 山菜や薬草くらいなら採れるのであろうが、わざわざこんな奥地に踏み込む 必要もあるまい。
 シェゾ自身も、未知の古代魔導アイテムの実験という名目がなければ、 こんな地に足を踏み入れたりはしない。

 それに、この場所自体、 アルルの通う魔導学校からも、家族の住まう村からも遠く離れた、 彼女にとって何の関係もないはずの地なのである。

「 ――――― ちっ!」

 忌々しげに、それでもシェゾは、彼女の魔力が発せられた位置を 辿るかのように転移魔法の詠唱をはじめた。



「あ、シェゾ・・・」

 空間から突如現れた彼の姿を見つけて、アルルはそう声をかけた。
 深い草薮の中に腰をおろして、この闇夜では声をかけられなかったら 簡単には見つけることはできなかったであろう。
 いや、正確には辺りには血の匂いが立ち込めているために、 近くにいることは判りきっていたのであったが・・・

「こんなところで何をやってるんだ。・・・この辺の魔物にさほど強いものは いない筈だが・・・」

 言いながら、アルルに歩を進めたシェゾであったが、彼女のすぐ近くまで 来て、その動きを突然止める。

「・・・お前、それ・・・」

 アルルの白い上着は、この闇の中でもはっきり判るほどに 真紅に染まっていた。
 しかも返り血などではない、アルル本人の限りなく赤い血液。

「大丈夫・・・かな? 思ったより傷は深くないんだ。 ・・・逃げ足だけは自信あるし」

 虚勢を張って笑顔を作るものの、痛みを堪えた小さな震えまでは 隠せていなかった。

「・・・魔物相手じゃなかったのか?」
「うん。・・・ボクも、良くわかんないんだ」

 ただ声を出すだけでもアルルは辛そうな表情をする。
 シェゾはゆっくりとアルルの傍に屈み込んだ。

「ヒーリングしないで。・・・隠れている場所がばれちゃう」

 傷の位置を確かめようと差し出したシェゾの手を、アルルは 突如、強く握りしめた。

「・・・敵は、まだ近くにいるのか?」
「わかんない・・・でも、すごく強かった・・・ボクよりも。・・・多分、 シェゾよりも・・・」

 屈辱的な言葉ではあるが、事実なのかもしれない。

「ありがとう・・・ボク、 ここで、たった一人で死んじゃうんじゃないかって思ってた」
「礼なら、助かってから言うんだな。・・・転移魔法で近くの町まで 飛ぶぞ。傷に障るが我慢しろ」

 無愛想にそう言いながら、アルルを抱え上げようとしたシェゾの手が不意に 止まった。

「やはり、簡単にはいかせてくれないか・・・」

 アルルを叢に横たわらせると、 シェゾは鋭い眼差しで背後を睨みつけた。

「・・・何のつもりだか知らないが、俺が相手をしてやる。・・・不服は 言わせないぜ」

 闇に溶け込むかのような黒のローブを纏った、正体不明の存在。
 背後に現れるその瞬間まで気配は感じなかった。

 そして、魔導力も ―――――

 アルルの言う通り、かなりの実力者なのだろうか。

 ローブのフードを深く被り、身体には幾重にも闇と同色の布を巻きつけていた ため、人相はもちろん、体格すらも恐らく小柄なのであろう・・・という 程度しか把握できない。

 恐らく、魔導師か、それに類する存在なのであろう。
 剣や格闘術を使いこなすようなタイプには思えなかった。

「シェゾ・・・気を付けて」

 アルルの言葉に、返事は返さなかった。
 返せなかった・・・という方が正しいだろう。

 強気な姿勢で対峙してしまったものの、一瞬の気をも抜けない・・・緊迫感と いうより、むしろ圧迫感に近い感覚が彼を襲い続ける。


 ――――― 『穏やかな殺気』 ―――――


 今まで一度も感じたことのない感覚であった。

「飛ばしていくぜっ!! ・・・アレイアードっっ!!!」

 手加減するつもりなど、毛頭なかった。
 本気でいかなければ拙い相手であることくらい、身体で判る。

「 ――――― !!」

 意外にも、黒のローブのその敵は、シェゾの魔法の威力を喰らった途端、 後方へと大きく吹き飛ばされた。

「 ――――― なっ!?」

 一瞬拍子抜けしたかのようなシェゾであったが、その表情は再び険しい ものとなる。

「・・・魔法が効かないのか? まさか・・・」

 吹き飛ばされはしたものの、すぐに体制を立て直したローブの主は、 まるで何事もなかったかのように、再び近づいてくる。

「・・・も、もう一度だ・・・アレイアード!!」

 同じく全力で魔力をぶつけてみたものの、結果は同じであった。

 魔力によるダメージはほとんど受けていない。・・・が、風圧で吹き飛ぶと いうことは、物理的ダメージには弱いのかもしれない。

「なら、結論は一つだ」

 言うと同時に闇の剣を召喚する。

「さあっ! これならどうだっ!!」

 剣を構えて、すかさずローブに向かって斬りかかる。

「 ――――― !?」

 一瞬何が起きたのか、把握できなかった。
 気がついた時には眩しいばかりの光の散弾が、 自らの身体を貫いていた後だったのだ。

「・・・くっ」

 今度はシェゾの方が後方に吹き飛ばされ、 大地に嫌と言うほど背を打ち付ける。

 僅かに、吐血。
 ・・・が、魔法の威力の割に、思ったほどのダメージはない。

 だが、分が悪いのは事実である。
 こちらの魔法はほとんど効いていない。
 剣での攻撃は恐らく効果があるのであろうが、接近戦に持ち込む前に こちらがダメージを受けてしまう。
 この樹海ごと破壊してしまうくらいのつもりで、手段を選ばずに戦うので あれば、勝機も見えてくるのであろうが、そんなことをすれば、 アルルの命にも危険が及ぶ。


 ――――― 待てよ、どうして俺は、 そうまでしてあいつを守ろうとするんだ?


 アルルは『獲物』 ―――――

 自らの魔導力の糧にするための『獲物』に過ぎない存在・・・


 『だから、護る。 ――――― 自分のために』


 結論は出た。

 ――――― それでいい。・・・充分だ。


 シェゾはもう一度剣を構えると、 再び敵に向かって斬りかかろうとした。

「 ――――― !」

 やはり、同じだった。
 ローブの主は、先刻と同じように光の散弾を放つ。

「 ――――― アルルっ!! 歯をくいしばれっ!!」

 途端、シェゾの姿が、敵の眼前から消えた。
 真正面から大きく踏み込んだかに見せかけて、 剣を構えたまま身体を素早く反転させると、そのまま横へ跳んで 叢に横たえられているのアルルの上に覆い被さるかのような姿勢をとる。
 敵の目を欺けたのは、ほんの一瞬だけ。
 容赦なく幾つかの散弾が彼の背後を襲う。

「し、シェゾ・・・」
「・・・喋るな、飛ぶぞ」

 耳元に口を寄せ、小声でそう素早く告げたかと思うと シェゾは、その姿勢のまま強引にアルルを抱き、転移魔法の詠唱を始めたのであった。






『闇が 光を 照らす時』 第二話に続く・・・






あとがき・・・


 とうとうシリアス小説がスタート☆
 しかも、念願の『シェアル』☆ 『シェアル』ですよ、奥さんっ☆(笑)

 ・・・は、いいのですが・・・あら〜? 話長くなり過ぎ〜

 なんと、回想シーンの途中で終わってしまいました・・・(泣)
 ・・・オリキャラ出てこなかったよぉっ。・・・前置きで『出ます』って 宣言してるのに・・・

 ・・・なぁんて・・・別館においていた小説を移転したので、『今更』なあとがき ですが・・・(笑)

 あ、移転に伴って、改行とかを本館の規格に変更いたしました〜
 一応『中編』小説なので、他の連載物のようにプロローグを別のページにはしないで、 一緒に置いたままにしてますが・・・(単に、変更が面倒だったというか・・・)

 あと、各話にタイトル・・・つけました。  





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