『おなかがぐ〜』






第十二話 『なんと新展開・・・?』



「アルルっ! サタン様を返しなさいっ!!」

 ドアを叩き壊さんばかりの勢いで、店内に飛び込んでくるなりそう言い放ったのは、 当然ルルー。

「な、何? 突然何だよっ!」
「しらばっくれても無駄よっ! 何なら力ずくでも・・・」

 確かに、このシチュエーションも台詞も、ある意味お約束的展開ではあるのだが、彼女の顔色が 普段と違うただならぬ状況を物語っていたのも事実。

 アルルが、その状態のルルーを、まともに会話できる状態に宥めるまでに、どれだけの時間を 費やしたかは語るまでもないだろう。
 そして、昼時にもかかわらず、その間、客が誰一人訪れなかったことについては・・・ この際どうでも良い。


 ――――― その間の出来事は省略するとして・・・


「そうね・・・あれは、何時頃だったかしら・・・」

 考え込むかのような仕草を見せながら、キキーモラは言葉を区切る。

 場所は、サタン様の別荘へと移っていた。
 彼女、キキーモラは、決してサタン様専属のメイドというわけではないのだが、この別荘に限らず、 他の別荘や塔、城等に至極当たり前に出没することが多い。
 無駄に広く多い建物と部屋を所有するサタン様にとって、その管理は並大抵のものではなく、逆に 『掃除をすること』に生き甲斐の全てを感じているかのようなキレイ好きの妖精であるキキーモラに とっては、その『場所』は大変魅力的なものなのだろう。
 互いに利害が一致しているからこその『当然の結果』であるため、誰もがそのことを不思議に思う ようなことは全くなく、ルルーでさえも、彼女にヤキモチを妬くようなことはない。
 ――――― まあ、常日頃サタン様の傍でお世話をする・・・という行為を、 羨ましく思う気持ちはそれなりにあったであろうが・・・

「さっき、ルルーさんにお話した以上のことは、特に思い出せないと思いますけど・・・」

 彼女の言葉からもわかる通りルルーは、アルルの店に乱入する前に、ここを訪れていた。

「まさか、そのままサタン様が失踪してしまうなんて・・・考えてもいませんでしたから、 私も良くは見ていなかったんです」

 そう。
 ルルーの動揺の理由は、まさしくそれであった。

「キキーモラが奥を掃除している時に、いつの間にか誰かが尋ねてきて、サタンと何か話をした後、 一緒に出かけた・・・ってとこまではボクだって信じないこともないけどさ・・・」

 アルルが言葉を区切る。

「ホントにボクは、今日サタンなんかに会っていないんだよっ!」

 キキーモラが目撃した『来客』が『アルル』である・・・と証言したことから、嫉妬に狂った ルルーは2人の後を追い、様々な通行人達から目撃証言を集め・・・その後 『サタン様の姿が消えた』という事実を知ることとなったのである。
 朝に姿を消したばかりのサタン様を、昼過ぎの時点で『失踪』と決め付けるのもどうかとは思うが、 その辺りをルルーにツッコム勇気のある者はいない。

「でもっ! 私も嘘なんて言ってませんっ!」

 掃除好きとキレイ好きが高じて、時に他人に多大な迷惑をかけることがあるものの、確かに彼女は 『嘘をつく』という種の妖精ではないし、 現に彼女が嘘をついたという話を聞いたこともない。
 第一、嘘をついて彼女が何か得をするという理由もない。

「・・・ご、ごめん。別にキミが嘘ついた・・・なんて思ってなんていないから」

 迫力に押され、すぐに謝罪の言葉を告げたアルルであったが、そんな彼女の本当に申し訳 なさそうに俯く姿を見て、逆にキキーモラ自身が冷静さを取り戻す結果となった。

「そう・・・ね。でも、私もはっきりとアルルさんの顔を見たわけではないのよ。 ドアの隙間からじゃ後姿しか見えないし・・・」
「・・・ってことは!」

 自らの疑いはこれで晴れたのだろう・・・と、安堵の表情を浮かべたアルルに、 キキーモラは首を横に振る。

「でも、後姿だけとはいえ、この目ではっきりと見たことは間違いありません。ただ・・・」
「・・・ただ?」

 アルルは・・・そしてルルーも、彼女の話の続きを促すかのように、 わざとらしいほどに身を前へと大きく乗り出した。

「・・・もしかしたら、アルルさんでなくて、ちょっぷんさんだったのかも・・・」

 その瞬間、2人とも前のめりに思いっきりコケたことは・・・ とりあえず、言うまでもない。


 ――――― 結局サタン様の別荘での聞き込みはその程度のものであった。


 今朝のルルーが別荘のすぐ外で出会ったというスケルトンTやハーピーらは、もう近くにはいない ようであったから直接話は聞いていないものの、他の目撃者が存在することから考えて、 サタン様の足取り自体に間違いはないようであった。

「そうだなぁ・・・はっきりと見たわけじゃないんだが、 多分サタンだったと思うけど・・・」

 別荘からかなり離れた道端で、偶然出会ったラグナスがそう言った。
 彼も、先刻ルルーが単独で聞き込みを行った時に浮上した『目撃者』の1人であった。

「確か、あんたがサタン様を見かけた・・・ってのは、もっと向こうの方だった・・・って 言ってたわよね」
「ああ。その時は朝のトレーニングをしている最中だったから。そう・・・ここから10分くらい 戻ったところだったかな・・・何をするでもなく、ボンヤリとサタンらしい人が立ち尽くしていた んだ」

 『戻ったところ』とは、ラグナスの視点からのものであろうから、アルル達にしてみれば 10分ほど歩いた先でのことなのだろう。

「特に面白いものとかある場所でもないのに変だな・・・とは思ったんだが、俺もずっと 観察し続けるほど暇じゃないしね。・・・で、ほんの数分目を離した隙には姿が見えなく なっていたんだ」

 辺りには姿を隠すような障害物などなかったが、その時は彼が翼を使って上空へと移動した ものだと思い、気にも留めていなかったのだという。
 だが、ちょうどその時刻はウィッチが辺りを飛び回っていたとのことで、仮にサタン様も 飛んでいたのなら、その姿を目撃していないはずはない。
 つまりは、ラグナスがサタン様の最後の目撃者・・・ということになるのだ。

「でさ、サタンは1人だった? それとも誰かと一緒だった?」

 このような聞き方では、誘導尋問に近いものがあるのだが、 そこまで考えていては話は先に進まない。

「うーん・・・他には誰もいなかったと思うけど・・・」

 辺りに障害物等がない場所なのだから、他の人物がその場にいれば 当然目に付かないはずはない。

「でも、言われてみたら・・・誰かを待っているとか、そんなカンジに 見えなくもなかったような・・・もしかしたら、比較的近くに誰かいたのかもしれないな」

 最初のキキーモラ以外の他の目撃者達からも、 この点については似たような答えを返され続けていた。
 『アルルを見た』という明確な返答こそはなかったが、『アルル以外の誰かを見た』という者は 誰一人として存在しない。
 だが、『サタン様が間違いなく1人きりであった』と断言できる自信を持ち合わせているものも 存在しないのである。

「やっぱりあんたの仕業なんじゃないの? 魔法で自分の姿を隠したとか、サタン様の方の姿を 隠したとかなら辻褄はあうじゃないの」

 自分が魔法を使えないせいか、どうも彼女は、説明のつかないことを全て魔法や魔導力に関わる ものにこじつけようとする傾向がある。

「そんな魔法ないってば。あってもボクは使えないし・・・」

 便利アイテムにそのような類のものは存在しないことはないが、騒ぎを大きくするだけであろう から、あえてそれは口に出さずにいた。

「まあ・・・そりゃ、ボクが知ってるのは基礎的な魔法ばかりだから、高度な魔法にはそんなのが あるかもしれないけどさ・・・」
「そうか・・・そうよね。あんたがそんな高度な魔法使いこなせるはずなかったわね・・・」

 そう。サタン様本人が使った魔法という可能性もあるのだ。
 それにしても、大変失礼な納得の仕方である。

「・・・でも、ちょっと待って」
「な、何?」
「・・・ってことはつまりよ、サタン様誘拐事件の真相には、高度な魔法が絡んでる可能性が ある・・・ってことなのよね」
「可能性・・・ってことなら、まあ・・・」

 勝手に『誘拐事件』と決め付けている点に、アルルはあえてツッコミを 入れるようなことはしなかった。

「なら、犯人は、アイツしかいないじゃないの!!」

 両の拳を力強く握り締め、ルルーはそう言い放つ。

「へ?」
「決まってるじゃない。こんなことができるのは、変態魔導師のあの男だけよっ!!」
「・・・え、ええっ!?」

 さすがのアルルも、この展開には正直驚いた。

「あの変態・・・とうとうサタン様にまで手を出すなんて・・・許せないわっ!」

 激しく誤解の生じる台詞であるが、もうルルーを止めることは誰にも出来ない。
 ・・・というか、極力係わり合いになりたくない。
 だが、理性の残っている者の務めとして、そこは止めておくべきなのだろう・・・
 第一、これ以上問題がややこしくなっては迷惑この上ない。

「ち、ちょっと待ってよルルー・・・よく考えてみて? シェゾがサタンに勝てるはずないじゃない か・・・!」

 魔動力の絶対量から客観的に判断して相違はないだろう。
 むろん、真っ向勝負でなければどのような結果になるかは予想できないが、 とりあえずその点も口には出さずにおくことにする。

「それも・・・そうね」

 ルルーの興奮を収めるのに、その台詞の効果は絶大であったようだ。

「大体、シェゾがサタンに会いに行って、一緒に出かける・・・だなんて、 絶対にありえないことだしさぁ」
「確かにその通りね・・・サタン様が変態魔導師の誘いに乗るはずはないし・・・でも、 それなら・・・」

 考え込むような仕草を見せ、ルルーは言葉を区切る。

「わかったわっ! 犯人は、カーバンクルよっ!!」
「・・・えええっ!?」

 新たなるルーの推理に、アルルは再び驚きの声をあげる。

「カーバンクルなら、サタン様を誘い出すこともできるし、サタン様も油断するに違いないわ。 さあ、アルルっ! あの黄色いのはどこに行ったの!?」

 肩を掴み、そのまま揺さぶららんばかりの勢いで、ルルーが詰問した。

「ち、ちょっと・・・ちょっと待ってってば・・・カ、カーくんは今日は朝からずっとお店に いたよ。どこにも出かけていないってば」
「あんたの言うことなんて信用できないわ、庇うに決まっているんだから!!」

 確かに一理ある。
 現にアルルは、カーバンクルから一瞬たりとも目を離さずにいたわけでもない。 もしかするとほんの僅かな時間なら勝手に外を出歩いていた可能性も否定できないのだ。
 それを承知の上で、先刻の返答をしたのである。

「カーバンクルなら小さいから、目撃者達が見ていなかったとしても不思議はないし・・・辻褄が 合うじゃないの!」

 この点については納得だが、最初のキキーモラの目撃証言はどこへ消えたのか・・・

「だ、だいたい・・・カー君だって、そんな変な魔法は使えないよ! 勝手に誰でも犯人扱い しないでよねっ!」

 カーバンクルが疑われ始めては、『共犯』とかいって再びアルル自身に疑いが向けられる可能性も あるだろうから、彼女も必死だ。

「いいえっ! カーバンクルなら・・・サタン様を、食べてしまうことも可能なはずよ!」

 自分でそう言って、その恐ろしい想像に身震いする。

「・・・・・・」

 アルルを取り巻く時の流れが、ほんの一瞬だけ止まった。

(確かに・・・それはありえるかもしれない・・・)

 その構図を、あまりにも簡単に想像することができた自分が 恐くなったのは気のせいだろうか・・・

(どうしよう・・・否定できないよ)

 現に今までにも何度か、サタンやシェゾを丸呑みにしたことのあるカーバンクルである。
 あの体の大きさで、一体どうやってその何倍もの体積もの物体を丸呑みにできるのかという 大きな謎は魔導世界の七不思議の1つともいえよう。

 それでもその時は、すぐに周りの誰かが気が付いて無理矢理吐き出させたり・・・と、事なきを えていたのだが、今回に関していえば、サタンが行方不明になってからかなりの時間が過ぎ去っている と考えられるわけで・・・

(ま、まさか・・・消化されちゃった・・・とかいわないよね・・・)

 恐ろしい想像は更に膨らんでいく。

「と、とにかく現場に行ってみようよ・・・何か手がかりがあるかもしれないしさ」

 場所を変えることにさほどの意味はなかったが、アルルとしてはそうせずにはいられない 心境であった。
 とりあえず、会話に入ることができずに固まっていたラグナスに別れを告げ、ルルーの背を押す ように早々に道を行く・・・


 ――――― ラグナスの言う通り、10分ほど歩いただろうか・・・


「あれ・・・この辺って・・・」

 普段歩き慣れた道ではなく、サタンの別荘から目撃証言を頼りに迷走していたために気が付くのが 遅れたのだが・・・

(この辺って、ボクの店の近くじゃないか・・・!)

 道の両脇を包み込む林の木々のおかげで、 周囲の景色を見渡すことができないのは幸いであった。
 決して『近所』というわけではないが、他に住宅の見あたらないこの一帯では、アルルの店兼 住居が最も近い建造物となるのかもしれない。
 当然、この程度の距離なら、カーバンクルがアルルの目を盗んで行き来することは充分 可能であるだろう。

「ほら、この辺よ」

 やがて林が途切れ、平坦な草原が現れた。
 恐らくラグナスはここでトレーニングをしていたのであろう。
 特に障害物の見当たらない広いスペースは、トレーニングに最適な場所の1つであるはずだ。
 家の近いアルルも、魔法の練習や特訓等に時折このような場所を利用する。

(・・・ん? 特訓・・・って・・・)

 不意に嫌な予感がした。

「あらアルル、店の方はもういいの?」

 背後・・・というより、側面から聞きなれた声が聞こえた。

「ド、ドラコぉ・・・?」

 『どうしてここに?』という台詞を辛うじて飲み込む。
 そう、ドラコのすぐ脇には、セリリとチコの姿があったからである。

「あんたが、こんな昼過ぎに特訓に参加するなんて、珍しいこともあったもんだよね」

 賢明な読者の方であるならば、彼女の台詞の意図するところは 理解していただけたことであろう。

 ――――― つまり、この一帯は、ドラコ自称『美少女戦隊』の特訓場として 使っている場所だったのだ。

「そっか・・・いつもと違う道から来たから全然気が付かなかったけど・・・ここって、 遺跡の裏側になるんだっけ・・・」

 ――――― つまり、例の宝玉が発見されたという神殿跡の裏手・・・

 アルルの店から近いと感じたのも当然のことであろう。
 彼女自身が参加することは稀であったものの、何度かドラコ主催の『特訓』に参加 したこともある。

「な、何よ・・・やっぱり、アルルが関わっていたってこと?」

 そう・・・大変間の悪いことに、この場には当然ルルーも居合わせていたわけで・・・

「特訓・・・ってどういうことよっ! まさかサタン様をどうこうした・・・だなんて 言わないわよねっ!」

 当然、予想通りのリアクションを見せたわけである。

「だ、だからボクは知らないって・・・」

 言いかけたその時である。

「アルルさんっ! 随分早いんですのねっ!!」

 ・・・ドラコにセリリ、チコがこの場にいたということから考えて、彼女がいないはずは なかったのである。

「おいっす!!」

 緊張感の全くない挨拶とともに、空から舞い降りてきたのはウィッチ。

「あらまあ、ルルーさんも御一緒ですの? サタン様は見つかりまして?」

 そう、ラグナスがサタン様の姿を見失ったちょうどその頃、上空では彼女が飛び回っていたわけで、 当然ルルーも彼女に対しての聞き込みも行っていた。

「見つからないからこんなところにいるんじゃないのっ! そうだ。ウィッチ・・・あんた、 この辺を飛んでいた時、アルルかカーバンクルを見かけなかった?」
「さあ・・・さすがにカーバンクルは小さ過ぎて、よほど注意でもしていないと見つけることは できませんわよ。でも・・・」

 考え込みながら彼女は言葉を区切る。

「アルルさんなら・・・」
「 ――――― !!」

 ルルーの顔色が変わった。
 当然アルル自身の驚きも相当のものである。

「ま、待ってよっ! ボクは朝なんて外には・・・!」
「往生際が悪いわ、アルルっ! いい加減観念しなさいなっ!!」
「ち、ちょっと。お待ちになってっ! 私がアルルさんを見かけたのは、 ついさっきのことなんですのよっ! ですから、サタン様の失踪とは関係ありませんわっ」

 『ああ・・・友達っていいものだな・・・』と、アルルは心からそう思った。

「な、なによ・・・それ。だって、アルルはお昼頃から今まで、ずっとアタクシと一緒だったのよ。 一体どこで見かけた・・・って言うのよ」

 ルルーの疑問ももっともである。

「さっき、神殿の入り口の方で。ホウキで飛ぶ速度より早いなんて大したものだと、それで感心 していたんですのよ」
「えええっ!」

 ウィッチ以外の全員の声がハモる。
 当然アルルは、神殿の入り口側へは行っていないし、今しがた逆方向からやってきたのを ドラコ達も目撃している。

「な、なんですの・・・その目は。私を信用していないわけですの?」
「ベ・・・別にそういうわけじゃないけどさ・・・でも、ボクは神殿の方には行って いないよ?」
「な、何ですってぇぇぇっ!!」

 少し、大袈裟過ぎるのではないかというくらい、彼女は驚愕の表情を浮かべた。

「せっかく・・・その素早い移動法を聞き出して、新商品の開発に利用しようと 思ったのに・・・」

 小声で言うわけでもなく、堂々とそう言い放ったその態度に、アルルは15行ほど前の 考えを、心の中で思いっきり否定した・・・

「あの・・・」

 間を取り繕うように声がする。

「もしかして・・・その神殿にいた人って・・・」

 セリリにそう言われる以前に、アルルもある可能性に気が付いていた。
 はっきりとした確証はないものの、キキーモラも同様の目撃証言をしていたことから考えて、 もはや疑いようもない。

 そう ―――――

「それって、ちょっぷんさんだったんじゃ・・・」

 今日二度目の展開に、再びアルルとルルーは前のめりに倒れこんだ・・・

「もうっ! あんた達みんなして、ふざけたこと言わないでよっ!」
「そ、そんな・・・私、そんなつもりじゃ・・・」

 セリリでなくとも、このルルーの形相は恐怖以外の何物でもないだろう。

「そんな怖い顔しなくたっていいと思いますっ!」
「な、何ですってぇぇぇっ!」

 見かねて咄嗟に間に入ったチコであったが、 むしろルルーの怒りを逆撫でしたに過ぎなかった。

「まあまあ・・・ルルーも、落ちついてっ!」

 アルルとドラコがなんとか両脇を押さえ込む。

「何を馬鹿騒ぎしているのかと思ったら・・・貴様らか」

 更に新たな声であった。

「し、シェゾ? どうしてここに?」

 先刻のルルーの『シェゾ犯人説』が再び浮上して、更なる騒ぎになるかもしれない・・・ そんな意図が、アルルの矢継ぎ早な質問にはこめられていた。

「あれだけ騒いでいたら、嫌でも気になるだろうが。まあ・・・それ以前に、妙な何かを 感知した・・・ってのが理由ではあるが・・・」
「み、妙・・・って、失礼ねっ!!」

 部分的にしか聞こえていなかったのだろう。
 アルルの気遣いも虚しく、ルルーは言葉の牙を向ける。

「誰もお前のことなど言っていない。いわゆる・・・ 魔力に近しい存在といえるだろうか・・・」

 そう言いながら、辺りを探るように視線を巡らせている。

「それって、私達のことでもありませんの? 新しい魔法の実験とかも していましたのよ?」
「そんな単純なものではない。まあ・・・サタンが妖しげな実験を試みた・・・とでも言うのなら、 納得はいくが・・・」

 その台詞に真っ先に反応したのは当然ルルーであった。

「サタン様・・・っ!? やっぱりこの近くにいらっしゃるの?」
「そうとも言っていないし、違うとも言えないな。ただ、 そういうレベルの何か・・・としか・・・」

 言いながら彼は、ある一点で視線を留めた。

「 ――――― !!」

 その瞬間、アルルやウィッチ、チコも辺りの異様な雰囲気に気付き、咄嗟に身を固くする。
 他の者達も、彼らの表情から尋常でない状況下であることを悟ったのであろう。

「ふふふ・・・こんなに早くに、ここまで辿り着くとはね・・・偶然とはいえ、 褒めてあげるよ」

 空間から、直接脳裏に響くかのような『声』であった。

「だ・・・誰っ!!」

 咄嗟の問いを言い終えぬ内に、大きく空間が歪む。


 ――――― そして・・・その場には、不敵な笑みをたたえた、見慣れた姿の少女が 現れたのだった。



 一方、その頃のサタン様は・・・

 ――――― ひ ・ み ・ つ ・ ? ―――――





『おなかがぐ〜』 第十三話に続く・・・

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あとがき・・・


 『おなかがぐ〜』始まって以来の、前後編を書いてみました。
 あじにしては珍しく、『書ききれなかったから2つに分けました』ではなく、当初からの 計画ではあったんですけど・・・問題は、後編が1本で収まるかどうか・・・(笑)

 とりあえず、新展開・・・なのですが・・・そのせいで、ギャグの要素が少なくなってしまっ たのは大きな反省点です。
 次回は、気を付けないと・・・





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