『倭国封神』 第一幕






第二話 『蓬莱島』



 歴史の道標からヒトの歴史が逸脱することが、果たして幸せなことだったのか否か、 それを決めるのはこの星に生きる人間達自身である。
 彼らの新たな歴史に関与することは、ジョカの行為と何ら変わりはない 愚かな行為であろう・・・

 蓬莱島に住まう仙道の全てが同じ考えを抱いていたかどうかは定かではないが、 新たに教主となった楊ゼンは、基本的に仙道が人間界に関与することを禁じた。

 『基本的に』という点から想像はつくと思うが、もちろん例外もある。
 だが、そのシステムが完全に確立するまでには、それなりの時間を要することとなった。

 まず、ジョカとの戦いの後、彼らは蓬莱島を新たな仙人界とするための、諸作業から 取りかからなくてはならなかった。
 またそれは蓬莱島と人間界とを結ぶ異空間内の神界についても同様であった。
 神界に留まることを決めた、かつての崑崙山の教主でもある元始天尊と楊ゼンとの間に、 それほどの考え方についての相違はなかったものの、それでも神界と仙人界との新たな関係を 決定するにはそれなりの長い時間を要したし、同じ神界内に住まう者同士、または仙人界に住まう 者同士の間のいざこざも決して少なくはなかったため、その作業は決して楽なものでは なかったのである。

 そしてそれとは別に、将来的には関与しなくなるであろうはずの人間界への最後の支援と 後始末も残されていた。
 仙界大戦の折の崑崙と金鰲、各仙人界の残骸の回収はもちろん、いまだ人間界に残る仙道や 妖怪達の招集。人間の力だけではどうしようもないレベルで破壊された地形の修復など がそうである。

 その間、人間界の政治は人間の手において営まれ、途中武王の死去という予想だにしない アクシデントもあったりはしたものの、彼と邑姜との間に生まれた成王と摂政・周公旦の元、 比較的順調に新たな歴史が流れ始めようとしていた。

 そして、ちょうど人間界において新たな王が誕生したのとほぼ時を同じくして、 楊ゼンは、3つの世界が新たな段階に進むべき時期と判断し、蓬莱に住まう全仙道に対して ある決断を迫ることとなった。

「今後一切、『基本的に』人間界への出入りは禁止します」

 その言葉に、一部の年若い・・・特に人間出身の仙道は狼狽を隠せなかった。
 人間界に親や兄弟や妻や子を残してきている者も少なくなかったからである。

 むろん楊ゼンとて打開策は考えていた。
 それが彼ら年若い仙道に迫られた『決断』である。

「このまま蓬莱島に残るも良し。人間界に帰るも良し。自らの意思で好きな方を選んでください。 ・・・それが最終決定になります」

 人間界に戻る者には、雲中子考案の遺伝子操作の薬を飲むことが条件付けられていた。
 黄一族、李一族に代表されるように、仙人骨を持つ者からはかなりの確立で、 同じく仙人骨を持つ子供が生まれることが予想されていた。
 また、直接その子供にそれが伝わらなくとも、殷王家がそうであったように、何代も隔てた子孫に 仙人としての素質が備わって生まれる子供が現れることも珍しいことではなかったからである。
 これでは折角、全ての仙道を蓬莱島に閉じ込めたつもりでも、何年か後には、新たな 天然道士が誕生してしまうのである。
 それを回避するための方法として、もう何百年も前から元始天尊の命を受けた雲中子は、 その研究を重ねていたとのことであった。
 そして、その薬を飲むことにより、飲んだ本人の仙人骨の力の大部分もが失われることとなり、 仙人骨の影響で発達しきった筋力や頭脳などは、ほぼ以前の状態を維持することにはなるが、 宝貝を操ることはもちろん、仙道特有の『不老不死』の能力は失われ、その結果、 今後は『単に力の優れた普通の人間』として生涯を終えることになるのだという。

 数日の猶予の後、幾人かの妖怪仙人を含む一握りの仙道が、人間として生きる道を選び蓬莱島から 去っていった。

 はじめから人間界に戻ることを前提としていた李靖は例外として、残る者も戻る者も苦渋の 決断だったと思われる。
 雷震子は『今の姫一族には、もはや自分は必要ない』と蓬莱島に残り、崇黒虎は『兄亡き後の 領地を人間として守るため』と人間界に戻った。
 父を人間界に残してきたセン玉は泣く泣く父と別れ、李三兄弟も『母には父がいるから』と 各々が同じ決断をくだした。
 両親を既に失ったものの、大好きな祖父や兄達との別れは辛いものであったが天祥も、 父飛虎と天化の意思を告ぐために道士となることを決意し、新たな蓬莱島での最も若い 道士として修行をはじめることになった。

 ――――― そして、期限いっぱい最後まで悩み続けた武吉は、楊ゼンのみに別れの挨拶を 残し、年老いた母の待つ豊邑に一人戻っていった・・・


 その決断が、果たして正しかったのかどうかは、恐らく本人であっても知るところではなかった であろう。


 そして時は流れて ――――― 現在へと至る ―――――




「全く・・・一体、何をしたらこんなことになるんだか・・・」

 溜息混じりのその台詞に、ナタクの機嫌はさらに損なわれた。

「これでも加減している。・・・この島を壊すわけにはいかないのはわかっている」
「まあ、昔から比べたらバリアの強度も上がっているし、通常の修行をする分には 何の問題もないはずだけどね、問題は・・・」

 大掛かりな工具を持つ手を止めて、彼はもう一度溜息をつく。

「それもわかっている。俺の体がもたないと言いたいんだろう」

 その溜息を聞く度にナタクの苛立ちは大きなものになっているようだった。

「だって、もしキミの身に何か大変なことが起きたとしたら・・・私は一体どうしたら・・・」
「い、いいかげんにしろっ!!」
「 ――――― ?」

 突然、怒りを爆発させたナタクを見て、彼は一瞬怪訝な表情を浮かべた。

「そんな顔するな! あいつと同じ目で俺を見るな! 同じ声で同じようなことを 言うな!!」

 そうナタクが言い終えるなり、彼は笑いを堪えるように言葉を返す。

「なんだ・・・太乙様の格好が気にくわなかったのか」

 笑いながらそういう声は、先刻のものとは明らかに異なるものだった。

「気味が悪いからやめろと言っているんだ! 悪趣味にも程がある」
「別に趣味でやってるわけじゃない。・・・太乙様の技術力にはさすがの僕もかなわないからね。 少しでも良い状態でキミを修理するために変化しているだけだよ」

 その楊ゼンの声にナタクは顔を背ける。

「・・・部分変化で技術力だけ真似たらいいだろう。姿形や声、仕草や口調まで真似る 必要などないはずだ」

 かろうじて聞き取れる程度の小声でナタクは呟いた。

「ま、確かに・・・その辺は趣味だけどね」

 事も無げに彼は、そう言ってのける。

「どっちにしても、僕は自分より上の能力を完全に真似ることはできない。だからその不足分を 補うために・・・」

 再び工具を手にとって、彼は話を続ける。

「・・・キミへの愛の力でカバーしようとしているんじゃないか」
「 ――――― !!」

 突然戻ったその声と口調に、ナタクは不自由な体のまま起き上がり、そのまま乾坤圏を放とうと 身構える。

「・・・・・・」
「なんだ。てっきり打ってくると思ってリアクションの準備もしていたのに・・・」

 構えたところで手を止めたナタクを見て、今度は楊ゼンの声でそう口に出す。

「・・・なんでもいい。さっさと済ませろ・・・」

 更に不機嫌な声でナタクはそう告げると再び、太乙真人の姿を模した楊ゼンから 思いっきり顔を背けるように横になった。  





『倭国封神』 第一幕 第三話に続く・・・

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あとがき・・・


 まず、この小説は一度に『序』から『第二話』までをUPしてしまいましたことを お知らせします。
 話の流れも見えないうちに『次回をお楽しみに☆』ってのは、極悪ですからね(笑)
 そしてもう一つ注釈・・・ジャンル別『封神』のトップにも書きましたが、『ブラウザ上で 使えない漢字はカナ表記または当て字を使います』というわけで、『蓬莱』は当て字に してみました。
 ・・・というわけで、この小説を読んだ良い子のみんな☆
 この漢字は、原作で使っている漢字とは違うので、真似しないでねっ☆

 それはさておき・・・前回の話の流れは、今回の話にどうつながるのか?
 なんでまた、楊ゼンが太乙ごっこ(?)をしているのか・・・?
 とにかく、次回以降に少しずつ明らかになっていく『予定』ですので、気長にお待ちいただけたら 幸いです。・・・気長〜に(笑)





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